一つ目のかけらは赤。炎を宿した石。
二つ目のかけらは青。氷を宿した石。
三つ目のかけらは茶。土を宿した石。
四つ目のかけらは黄。雷を宿した石。
そして五つ目のかけらは黒。宿る力は闇。
闇は全てのものを飲み込む。
「だからお前の力は・・・そう簡単に使いこなせないだろう」
『待ってみるさ。どーせ俺は無機物だから、時間の概念なんか関係ねぇ・・・だろ?』
「そうだな」
笑ってそっと、石の表面を撫でた。
「お前たちを未来へ託そう。再び危機の時が訪れるまで」

昔むかしに交わした会話。
もう相手のことなんざ覚えてねーが・・・もしかしたら
俺たちを作った奴だったのかもしれねぇな。






あちこち旅をしている間に、時間は流れた。
リンケハントが病床にあると風の噂で聞き、影はガイセルドに戻った。
「随分と・・・久しいの」
「よう、ジジィ。会えないかと思ったぜ」
「話を聞かせておくれ。お主が旅して目にしたものを」
そう言って老人は上体をおこし、懐かしそうに微笑んだ。

影と俺は長い長い話をした。
あちこちで見た物、出会った人、十三の要の話もした。
片腕の賢者は、人の話を聞きながらメモをとる癖があった。
この時も、病人とは思えない速さで何か書いていた。
「他の要に・・・会えたのじゃな。よかったのぅ・・・」
「そーだな。一人じゃないんだって思ったよ」
「普通の者とは違っていたのか?」
「なんか、上手くいえねーけど懐かしかったんだ」
知っている、と思った。
「べつに見たことがある、とかそういう訳じゃないんだ。ただ知っている。ずっと昔から・・・」
賢者が言った。
「そうか・・・転生する魂・・・途絶える事の無い流れ」
「巡りの環の外に居る者、神代の楔」
「リンケハント?」

「喪失の子よ。帰る場所など、探さずとも良い・・・」
それは自分で作り、増やしていくものだから。
「心のままに生きよ」

リンケハントはそう言って笑った。
嘘みたいに静かに息を引き取った。
ペザンテに居た沢山の弟子が涙を流した。
影は泣くことができなかったから、ただぼんやりしていた。
ほんとうは、泣けるもんなら泣きたかったんだと思う。


「賢者さまが亡くなられたか・・・あの方には昔世話になったもんだ」
「お前、武道家なのに会ったことあんのか?」
「何も分かってない若造の頃にね、賢者にも解けない謎が有るはずだと思って聞いたんだよ」
「・・・何を?」
「人はなぜ人を愛するのか」

「「・・・・・・・」」

微妙な沈黙が流れた。
「ししょー、なんでそんな痛い事聞いちゃったわけ?」
影の気持ちを猫耳の生えた少女が代弁してくれた。
「いや、だから若かったからね。うん。いろいろはっちゃけてたんだよ」
「ジジィは何て答えたんだ?」
「儂もそれは分からん。一緒に考えてみようじゃあないか・・・とね」
「うわぁ・・・」「いかにも、言いそうな答えだな」
師匠は珍しく赤面していた。
「で、考えたの?結論は出たの?」
「・・・出なかったよ。最後には参りました俺が悪かったです、と泣きついたものさ」
そして師匠は遠い目をした。
影はお弔いを終えた後、リンケハントの紹介で出会った人達の所をこんな感じで回っていたんだ。
そうすることで、自分の中で整理をつけようとしていたんだろう。
俺はもう他の武器に変化できなくなっていた。
ずっと曲刀のまま、形が固定化されてしまった。
影がリンケハントの功績を称えた碑の周辺を清めた時に、
もう俺無しでもすっかり安定したと確信した。
親が子供の独立を祝う時ってこーいう気分になるのだろうか、
なんてことを思った。


別れの時が訪れた。
意志に呼応する力にも限界ってもんがある。
この世にあるもので不滅なものなどないのだから。

少年は激しく憤っていた。
その怒りは、なんだか自分に似ていると影は思った。
託すならあいつだな、と思った。


なぜこんなにもあっけなく、
どいつもこいつもいなくなる。

少年は砂塵舞う荒野に居た。肩には体に似合わない長銃を担いで。
つい先ほどの戦いで、仲間は全滅した。
元々そんなに大勢居たわけではない。
(・・・また、俺ひとり残されるのか・・・・・・・)
“ディード”
死を招く者、死神。
それが本名なのかすら、分からないけど どうでもいい。
(面倒だなぁまったく)
さっさとあっちに行きたいと、彼が己の身の上を嘆いた時。

風が吹いた。
ひとすじの風。
圧倒的なちから。

「なんだ・・・・!?」
一陣の風。黒き風。
(その悪魔は意志に呼応する力を持っている)
いつか聞いた、噂話が蘇る。

「小僧、力が欲しいか?」

「は?」
一体何の押し売りだろうか。
というか、影が口をきいた時点で怪しい。怪しすぎる。
「欲しいのならば、くれてやる。お前なら使いこなせるだろう」
「・・・使いこなす自信はねぇけど、欲しい」
「よし。好きに使え」
「何だこれ・・・刀?」

そうして、アラスター・ディードは一本の曲刀を手に入れた。
刀身も柄も黒く、鞘のない不思議な剣。
どういう仕組みか分からないが、ゲネラルパウゼというひょうきん者が住んでいるらしい。
自分の手元にこの力があることを知れば、
どのみち争いに利用されてしまうと悟っていた彼は国外に逃れた。
護身用にゲネラルパウゼを持ち歩き、数年後には運び屋として働きだした。


・・・つーことで、影は再び一人になった。
だけど、俺と旅した間に出会った人々にもう一度会うために、
世界を旅しているんだと思う。
あいつの「帰る場所」ってのは出会った人の居る所だから。

「謎を・・・解き明かしたいのよ。この世界は分からないことが多すぎる」
いつだったか、そんなこと言う女に出会った。
「・・・・神、預言詩、十三の要、異形、聖域の民、破魔一族、干渉者、
 悪意の魔女、そして忘却の大陸、女神アークウィング・・・・地上の翼」
どれか一つでもいいから、死ぬまでに解き明かしたい。
不屈の意志。
そういう生きる上での信念みたいなものが、自分には欠けていたと影は気付いたらしい。
『じゃあアンタは、これからどう生きるんだい?』
「決まってるじゃねーか。俺は俺の好きなようにやるさ」

そこに確たる意志が無くても、べつにいい。
「死ねないんだから、開き直るしかねーだろ。そう思わないか?」
『あんたのそーいう所は、結構好きだよ』

時々俺は、こんな風に色んな事を思い出すんだ。
そうしてアイツが今どの辺で誰と出会っているか、想像したりする。

俺たちは、ごくあっさりと分かれた。
「・・・ありがとな」
『こっちこそ、楽しかったぜマスター。また会おう』
言うべき事はもっと沢山あった気がした。
だげど、過ごした年月の長さが多くを語らせなかった。
奴は死なない“影”で十三の要で旅人で、俺は無機物で意志に呼応する力で・・・
ようするに、普通の人の目から見たらただの刀に過ぎないんだけど。
二度と出会わないって、誰が言い切れるんだい?




さぁ、これでもう俺の知る影の話はお終いだ。
俺にもまだ分からない事が多い。
だけどいつか時が満ちれば、
奴も知ることになるんじゃないのか?
ずっと昔に失われた物語を。

何せ、奴の望むものは未来にしかないんだ・・・
もしそれを俺が見ることは無いとしても、それはそれで良いんだ。
多分 どこかで出会った時にでも、話してくれるさ。


おれは無機物だけど、期待してるんだ。
未来ってものにね!





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