てるてる編・其の二



君は今、どうしているのだろうか?himel blau――――空司る者よ。



疑惑

「問題は、この場にリーダーが居ないってコトよ」紫髪の言葉に、黒髪の少女が首を傾げた。
「あっれぇー?そういや、紺ちゃんいないね。どーしたんだろ」
彼女は“太陽”だ。春夏秋冬、それから風と雷、今ここにいるメンバーの統括をやっている。
どうして、という疑問はすぐに断ち切られた。
「白が、ちょっかいを出した―――と考えるのが妥当じゃないかね?」青が憶測を告げた。
「ということは、人間界に被害が出ている、という事ですわね・・・・」非常に嫌な展開になってきた。
彼女は気付いているのだろうか。自分で自分の首を絞めているということに。
「どうにかしなきゃならないけど、解決策が無いのが・・・」
緑はつい、ブラックの方を振り返った。
紅玉の眼差しが、なにかを捕らえている。
(いったいなにが見えて――――――――えぇっ!?)
一瞬のできごとだった。
ブラックは、何の前触れもなくこの空間から姿を消した。

「皆さんっ、ぶ、ぶ、ブラックさんが!!」
「何?」「どしたのー?」
「珍しいなぁ緑が慌てるなんて」「どうされました」

「い・・・・いなくなっちゃいました」

跡形もなく忽然と。「この場所から、ブラックさんが・・・」
「冗談かと思ったけど、本当にそうみたいね」
皆、まじまじとブラックが居たはずの場所を見つめた。
「どーゆうことかな、あの独り言と関係があんのかなー?」
「独り言、つーよりあれは・・・」
「何ですか?」うーむ、と青は考えるポーズをとった。
「まるで会話してるみたいな、そんな感じがした」
だれかに語りかけていた。何かと繋がっていた。そんな雰囲気があった。
「脱出の糸口になるかもしれません・・・でも、ブラックは誰と話していたのでしょう?」

「あれは、呼びかけでした」

緑は、妙にはっきりと答えた。
「かつてブラックさんは地上で人と共に戦っていましたから。恐らく、その方へ」
「・・・それって、すんごぃ昔の話じゃないのー?」
「でも、ご存命ですよ」
何しろ彼は、13の要の一人。人外の力を持つ者。
「つまり、縁がある者の危機を助けに行ったってことかぃ」
なんかすげぇいい話なんですけど。
誰もが一瞬「あのブラックが・・・・?」と思った。
ってことは、縁のある者を思い起こせば良いのだろうか。黒はぼんやりと考えた。
居るような居ないような。実に微妙だ。
「せめて外部と連絡がとれたら良いのですけどねぇ・・・・・」赤が優雅に溜息をついた。
完全に待ちぼうけ、であった。
全てはブラックにかかっていると言っても過言ではない。


                  

雷の帰還

まばゆい光が体を包んでいた。
厚い雲の海を通り抜け、自分が守るべき世界の姿が見えた。
(もどった・・・・・!?)
雹は言っていた。
「誰も名前など呼んでくれない」と。
(そんじゃあ、オレは名を取り戻したから外に出れたのか・・・・?)
必要としてくれる誰かが名前を呼んでくれれば――――あの場所から脱出できる。
ブラックは、とにかく全てはかつての戦友を助けてからの話だと思った。
危機に扮して、すぐに思い出してくれた彼を守らなければ。
そうでなければ相方などと名乗ってはいけないのだ。


                  

煩悶する紫

わたしたちは人間に“精霊”と呼ばれている。
あるいは“四季”または、空や火、水や風、土とも木とも呼ばれる。
『自然』と総称される、ありとあらゆる力の源。すべての命を守護する者。
きちんと四季を運び、十分に雨を送り、そして昼は太陽の光を、夜は月の静けさを与える。
絶え間ない時の中で世界の流れを見守り続けてきたもの。
その姿は人に見えることがなく、
それゆえ彼等はわたしたちの存在を信じ、偶像化し、崇め讃えてきた。
見守り続けること。存在し続けること。それが存在の全て。
プログラミングされた、初めからの使命。

彼女にはそれが無かった。
なに一つ許されなかった存在。
予定外の存在。

だからなの?ヒョウ。
貴女が世界の終わりを望むのは。

                  

光を呼び戻せ

どれぐらい時が過ぎたのだろう。この空間は、時間の経過も分からない。
誰もが待つことにくたびれ、だんだん口数も減っていき、
ついには無言になり無情に時が過ぎていった。
なにもない空間。世界は今この時にも動き続けているというのに。
情報は皆無で、なすすべもない。完全なる断絶。
これが疎外されるということ。拒絶されるということ。
閉ざされるということ。緑はなんだか気分が悪くなってきた。

突然、それまでの沈黙を切り裂くかのように、どこからか声が響いた。
『まだそこに居んのか、てめぇらっ!』この乱暴な言葉遣いは。
「ブラック!!」青が叫んだ。しかし彼女の姿は見えない。
「意識だけこっちに飛ばしてきてるって訳?」
『よく分かってんな紫。正解だ。つーか早く戻ってこい』
「もどりたいのは山々なんですけど・・・・」と赤。
「ブラックはどうやってここから出たのよぅ」
続いて黒が虚空へと問いかけた。
『取り戻したんだよ、地上でのオレの名前を』

 なまえ・・・・・?

誰もが皆、それが何なのかしばらく思い出せなかった。

名前――――それは確か人に与えられるものだ。
「どうして名前を取り戻すことが外に出ることに繋がるんですか?」緑が我に帰って聞いた。
『分かんねぇか、雹は言ったじゃねぇか「誰も名前なんか呼んでくれない」って。
 裏返せばそれは、名を取り戻せば出れるって事だろ?』
それは確かに正しいのかもしれない。
だが彼女らは所詮かくあるべきと定められた存在なのだ。
役目に縛り付けられているとも言える。名前を手に入れるという事は、規格外の事になりはしないか。

「おぃ、聞いてんのか?オレ達で起こすぞ『太陽』を!!」

各々が悩み始めた時、ブラックの怒号が飛んだ。そうだ、太陽を起こさなければ。
いまここに居ないリーダー、紺を。

                   

塞がれた真名

「ちょい待ち、起こすったってさ、なんか方法あんの?」青が問いかけた。
仮に名を取り戻してここから出れたとしても、如何なる方法で紺を助ければよいのか。
そもそも紺はどこに居るのであろう。
『あぁ、オレも地上に出てくるまでは忘れてたんだけど・・・・聖地を中心にして世界に六芒星を描くんだよ』
「二つの三角形の中心が交わるとき、太陽は光を取り戻す
  ――――リーダー不在時における特例事項・・・・・だっけ」自信なさげに紫が呟いた。
「そういやあったなぁ。絶対使うこと無いと思ってから忘れちまったよ」
「丁度六芒星になるポイントみたいなのがありましたわね」
「習ったの、むかし過ぎて覚えてないよー!」
『とにかくだ、誰からでもいいから外に出てきてくれ。オレだけじゃどうにもなんねぇから』

頼み事をしないタイプから何かを頼まれると、その時にかかるプレッシャーは相当なものである。
そういう意味では今までの待ちぼうけな状況から一転、彼女達はもの凄いプレッシャーと格闘していた。
「名前ったってねぇ?全然思い出せないけど・・・」
「うーん、なんか思い出そうとすると、もやもやするんだよねぇ」
「プロテクトがかけられてるって感じね」
「それなら、ブラックさんみたいに外から呼んで貰うのを待たなきゃ駄目なんですかねぇ?」
「本当の所うちらに与えられてるのは――――――緊急起動用のコードナンバーだけだからなぁ」
これは緑における「Grune」という呼び名である。
名前、というのとは少し異なる気がする。
どう足掻いても“識別番号”そのものである。
「ここでずっと待っていれば、そのうち誰かが呼んでくれるものなのかしら?」
酷く受け身な考え方だと思った。
誰からも必要とされていないのではないか、という漠然とした不安。
「やっぱり待つしかできないのかなぁ、うー、ジレンマ」

ほかのてるてる達が話しているのを聞き流しながら、赤の目には違う景色が見えていた。

                   
 

Fruhling


(な・・・・なんでしょう、これは)どこかの工房のようだ。
床には絵の具や作りかけの彫刻やクロッキー帳、油絵セット、
よく分からない絵が描かれたカンバスが無造作におかれ、汚いことこの上ない。
ひとり、男がうろうろしている。
「寒いって!なんでこんなに寒いんだ。雪とか降んなよ、嫌がらせかよ!!
僕寒いの苦手なのにっ」
と、床に落ちていた絵の具のチューブを拾い、パレットに出そうとする。
「固まってる!寒さで絵の具が出ないなんて初めてだ!!」
ちくしょうめ、と毒づきながら、彼はチューブを投げた。
「あー、こうなったら美術学校時代に絵画室から盗んだ秘蔵の40色コンテで描くかなぁ」
彼の名はアパッショナートという。工房と称したボロ屋に住んでいる画家の卵である。
「こう寒くっちゃ反対に凄い温そうな色使いたくなるよなー」
ちなみに彼は一人で作業する事が多いので独り言が多い。
秘蔵の40色コンテ(美術学校時代絵画室から盗んだ)と睨めっこしながら
彼は作画に取りかかった。

(もしかすると、ブラックにもこういう光景が見えていたのかしら・・・・・)
赤はそんな事を考えながら、アパッショナートが絵を描いている様を眺め続けていた。
しかし、変な人間だ。その指先に魔法が宿っているかのようだ。
普通下書きぐらいしてもよさそうなものを、一気に色をのせている。
がさがさと、まるで落書きをする子供のような無邪気さで書き殴っていく。

頭の中には完成した絵が見えているのだろうか、その手の動きには全く迷いがない。
大して時間が過ぎていないのに、どんどん白いカンバスに色がのせられる。
男は描き進めていく。

「んー、タイトル何にしよっかなー」
描いている間に寒さを忘れたようだ。恐るべし画家魂。
「春・・・・・春風?んー、ありきたりかなぁ」
(もしかして、名前って――――)
赤は自分が何かをつかみかけている気がした。

「そうだ、灰色混ざってるから“春曇”にしよう。古い言葉でフリューリング!」

瞬間、赤は自分を向こう側へ引っ張る力を感じた。
(あ・・・・)
外に出る、ってこういう事なのか。すべての柵から解放されるという感覚。
それを自分の身をもって体験しながら、フリューリングは外へ出た。

                   

炎の草、解放

「う、わぁあああっ!?」誰よりも驚いたのは何の罪もない売れない画家・アパッショナートであった。
自分が描いていた絵からいきなり人が出てきた。
いや、人なのかどうか分からないがとにかく人の姿を模したものだ。
ひどく美しい。全てを包み込むような暖かな赤の髪と目の、不思議な女性・・・・・・にしか見えないが。
(透けてる―――――ッ!!)
ついに寒さのあまり幻覚が見え出したかなぁ、と彼は思った。
肉体を持たない知り合いというのは確かにいるけれど、それとはまた別な存在のような気がした。
『あぁ、どうもありがとうございます。お陰で出られましたわ』
礼を言われてしまった。「はぁ」なんだか気の抜けた返事しか出来なかった。
「でっ、出られて・・・・良かったですね」事態を飲み込めないまま、彼はそんな事を言った。
『ほんとうに。私、貴方のお陰で名前を取り戻せましたわ。
 Fruhling―――――フリューリング、春曇』
大事な言葉を歌うように言う彼女を見て、彼はふと思った。
(もしかしたら・・・・・・春の精霊様かなぁ)彼の生まれ故郷で信仰されているものだ。
燃えるような赤い髪。やわらな笑顔。春の始まりを、生命の息吹を、芽生えを運ぶ。
昔、よく想像して描いていた存在が目の前に居る。
そういえば寒さはどこに消えたのだろう?そんな事を思いながら、ぼんやりと見とれていたら、
彼の工房にまたしても来客があった。

「邪魔するよっ!」ばぁんと扉を開けて、入ってきたのは水色の髪の女だ。右目に片眼鏡をかけている。
「フォルテさんっ、勝手に人の家押しかけてそれは無いと思います!」
後ろに続いてきたのはオレンジの髪を長く伸ばした長身の青年だ。
呆気にとられているアパッショナートに目もくれず、フォルテと呼ばれた女は春の精霊をまじまじと見つめた。
「・・・・・・精霊サマ?」
『えぇっと、はぃ・・・・・そう呼ばれることもありますわ』答えながら赤は思った。
何だろうこの娘は。普通の人間には持ちえない力に守られてる。妙な子だなぁ・・・・。
「ビンゴ!当たりだわラルゴっ!!」娘後ろにいた青年にはガッツポーズをした。
「良かったですねぇフォルテさん」青年はにこにこしている。
(今日は一体何の日なんだろう?珍客デーとでも名付けようかな・・・・)
アパッショナートが現実逃避をし始めたその時、
「あぁ、この工房の持ち主の方ですよね。すいませんねぇ、いきなり押しかけちゃって」
律儀に謝られてしまった。この謝り慣れている感じは
たぶん相当長い間付き合ってきた者なんだろうな、と勝手に感心した。
「いや・・・・別に良いんですけど」
もうなんか好きにして下さい、って気分。
「あの人は、何者ですか?」精霊と親しげに話している謎の女の事である。

「あぁ、フォルテさんは召喚士なんですよ」

召喚士。それは精霊と心通わす者の事である。
「えっ、いやだって、召喚士、ってその・・・・」
焦って上手く喋れない。
「そうですよねぇ。伝説上の存在です。でも彼女はホンモノですよ」誇らしげに、ラルゴは笑った。
「本物の、召喚士です」
なんだか今日は題材になりそうなものとばかり出会うなぁ。やっぱり今日は題材の日と名付けよう。
画家の卵・アパッショナートはふつふつと絵を描きたい願望が沸き上がってくるのを感じた。

                    

工房にて。

「精霊サマ、何かお困りですか」
まるでこっちの事情を知り尽くしているかのような眼差しで、フォルテは問いかけてきた。
『そうですね・・・・少し、困ってますわ』いやもう、少しどころじゃなくてかなり困っているのだが。
「術者が必要ですか?召喚士は精霊の願いを叶える者。お手伝いしますよ」
そう言って不敵な笑みを浮かべる。その口ぶりと態度、自信満々なようである。
『ほんとですのっ!?』
「偉大なる召喚士レジェロの名において、二言なき事を誓います」
そう言って娘は古風な礼をした。「事情をお話して頂けますか」
『少し長くなりますけど・・・よろしいですか?』
「どうぞ。お気になさらずに」

こうして、工房では春の精霊が話を始めた。
彼女の他の四季・ならびに風と雷は良く分からない世界に閉じこめられていたらしい。
もはやこの期を逃せば絵など描けない!!と思ったのか
アパッショナートは部屋の片隅で絵を描き始めた。
召喚士の相方(職業は賞金稼ぎらしい)と雑談をしながら。
「ラルゴさんには精霊さまの姿が見えてるんですか?」
「いぇ。俺には全然、見えませんよ」
そのくせ召喚士と一緒にいるなんて不思議な男だ。
色を迷っているふりをしながら、まるで正反対に見えるフォルテとラルゴの接点を考えた。
「変だと思いますか?見えないのに信じていて、一緒にいるというのが」
アパッショナートの様子に気付いたのか、ラルゴはそんな事を言った。
「いぇ、動機なんて人それぞれでしょうし・・・・・・」
そんな事言い出したら俺はなんで絵を描いてるんだって話になっちゃうし。
・・・・・好きなことに理由はいらないのだ。
うん。多分きっと、そういう事なんだろう。
「ラルゴぉ、地図出してー!」
「はい、ちょっと待って下さいね」
「はやくー!」二人のやりとりが、微笑ましく思えた。
春ってこういうものだなぁ、とか思いつつ、改めて春の精霊に召喚士、
それから画家の卵に賞金稼ぎという妙な組み合わせに苦笑した。

フォルテはいつの間にかちゃっかり椅子に座っていた。そうしてフリューリングと話をしている。
「聖地を中心に六芒星・・・・標があった方が良いかもしれませんねぇ」地図を広げて、言った。
『しるべ、ですか?』
「陣を敷くためには、必要なんです。邪を寄せ付けず、尚かつ精霊サマを守護するものが。
 ちなみに、六人で聖地の一人を目覚めされる――――で良いんですよね?」
『えぇ、その通りです』
「分かりました。聖地に力が集うように・・・・お貸ししますよ」
 ニヤリと笑って召喚士は、懐からふたつの石を取り出した。
「ルビー、エメラルド。火と草を司る者達よ、我が元に来たれ」
 魔法陣も無しに、いきなり宝珠の精――――宝石に宿る精霊を呼び出した。
『呼びましたか御主人っ!!』
『何だぃマスター、急ぎの仕事か!?』
うーん、妙に熱血なんだよなぁ、この二人。
「そうねぇ、お前達が目印になってくれないとちょっと困る事態だね」
『あらまぁ、可愛らしい』赤は正直な感想を述べた。
宝珠の精は宝石を媒介にしているだけあって、サイズが小さい。手の平サイズだ。
『りょーかいです!!』
『そこの姐さんの近くに居れば良いんだろっ!』
「飲み込み早くて助かるわ、お願いね」
十三元素を司る宝石。それに宿る13の宝珠の精。
全てを従え、全てと契約を結んだ者が召喚士である。
(もしかしたら、この子がリーダーを起こす鍵かもしれない)

赤は、この危機的状況に置かれながらも、希望のようなものを感じ始めていた。

                   

情熱の画家

「へぇっ、良い絵描くじゃんアンタ。名前は?」
「・・・・・アパッショナート」誉められてちょっと照れる画家の卵であった。
「長いねぇ。略してアートにしたら美術の申し子みたいでステキなのに」
その手があったか!アートは密かに思った。
「いやぁ本当すみませんねぇこんな遅くまで・・・」
気付けば外はもう夕暮れであった。
「こちらこそ何のおかまいも出来ずに・・・」
「何主婦みたいなやりとりしてんのよぅ、行くわよっ、ラルゴ!」どこまでも自分中心な女である。
「はいっ!」
「あぁそれから、アート君。コトが片付いたら宝石回収に来るから売り飛ばさないでねっ♪」
そんな事しねぇよ、後が恐い。
『御主人、行ってらっしゃーい!』
『頑張って来いよぉっ』エメラルドとルビーが、主に向かって話しかける。
『ごめんなさいね、フォルテさん』
お礼の言葉を言うのは早すぎる気がしたから、つい謝ってしまった。
「気にしなくて良いことですよ、精霊サマ。召喚士は人間と精霊の“仲を取り持つ者”ですから」
そう言って、フォルテとラルゴは次なる土地へ向かった。

(嵐のような人達だったなぁ)
なんの前触れもなく現れて、そして去っていった。なんだか急に工房が広くなった気がする。
『画家のにぃちゃんよ、あぁ見えてマスターはあんたの事気に入ってるよ』うんうん、と赤毛の精霊が頷いた。
「へっ、そうなのかぃ?」
『御主人サマは素直じゃ無いんですよぅ。色々と』緑毛の精霊もまた、呟いた。
『彼女たちの姿が見えるという事は、フォルテさんが術をかけてくれているからなんですよ』
にっこりと微笑みながら、赤も言った。
「えぇっ!?本当ですかっ」そんなもの、いつかけられたのだろう。
『ほらねっ、優しいでしょー御主人サマ』
『多分、俺等が何日世話になるか分からないから姿形が見えるようにしてくれたんだろぅよ』
この意外な優しさは何なのだろう。
(あぁ・・・・だからラルゴは一緒にいるのかな)
真実はどうか、分からないけど。
「精霊さま、あの二人はいつ戻ってくるんでしょうねぇ」
思えば人と話したのは随分久しぶりだった。
『そうですね・・・・・世界に平和が訪れた頃に、じゃないでしょうか』
「先は長そうですねぇ」
だが、あの二人はやってのけるのだろうな、と思った。
『いいじゃねーか、俺等がいれば、題材には困らないだろ?』
それは確かにそうだ。アートは笑った。
孤独な戦いの日々から、少しの間だけでも解放されるかもしれない。

(そうだなぁ、あの二人に贈れるような絵を描こう)

誰かのために絵を描きたい、と思えるのは久しぶりだった。
たまにはこういう感情も悪くないね。お礼の言葉と共に、贈れるような絵を描こう。

                   

歩み始める者達

真冬の寒さはフリューリングが地上に戻ったためか消え失せ、辺りの雪はゆるやかに溶け始めていた。
「さぁて、六芒星を描くったって地図上ではまだ一つしか点が浮かんで無い訳よね」
「そうですねぇ」
移動距離が凄そうだなぁとラルゴは思った。
「こんな時こそ気まぐれな運び屋さんが出てきてくれたら良いんだけどねぇ」
『何だかオモシロそうな展開じゃないかマスター。命令をよこしなっ!』噂をすれば、である。
「ターコイズ!」
ラルゴには宝珠の精の姿が見えないが、
彼等は気まぐれで呼んでも出てこない時があるのは知っている。
気まぐれの代表格、とも言えるのがトルコ石に宿る精霊ターコイズである。

「・・・・・あんたさぁ、春夏秋冬の精霊の位置とか分かるわけ?」
『愚問だねぇマスター、俺は空司る者だから知らないことは何もないよ』なんだか自慢げである。
「つまり分かるって事ね。オーケィ、光が見えてきたわよッ!」
「よかったですねぇ、フォルテさん」
『問題は、各々の真名までは知らないってコトだけど・・・』
「うん、その辺は多分地元の人達がどうにかしてくれるんじゃない?」
とてつもなく他人任せであるが、ある意味正論である。
誰かが心の底から必要としたときで無ければ、精霊の真名は紡げない。
「そうですよねぇ、精霊の名前ですもんねぇ」
『分かってきたじゃねぇかラルゴっ!』
声だけで誉められるのにも慣れてしまった。うーん、成長したなぁ俺。

さてはて。ここに来てようやく、てるてる達は人間の協力者を得ました。
彼女の名はフォルテ。
伝説の召喚士・レジェロの意志を汲む駆け出し召喚士です。
その相方は賞金稼ぎが本職のラルゴ。今やただの付き人と化していますが、
本人が幸せそうなのでそれはそれで良いと思います。

二人の進む先には、一体何が待ち受けているのでしょうか?



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