「キミが、ボクを呼んだのかい?」雹は、暗闇に問いかけた。
「誰・・・・・?」暗闇から、女の声が聞こえた。
「ボクには名前が無いんだ。でも侮蔑を込めて白とか雹とか言われてる」所詮自分はイロナシなのだ。
「貴方も、除け者にされているの・・・・?」その声は、同意を求めているように揺れていた。
「そうだね―――――ずっと、閉じこめられていたんだ。キミがボクを呼び起こすまで」
「酷い話ね。そう・・・私が貴方を呼び起こしたの・・・」まるで身に覚えがない。
「キミにそのつもりが無かったとしても、ボクはキミに助けられたんだ」
「私が、たすけた・・・・」
「キミの名前は?」
しばらく間が開いた。それが何なのか忘れてしまったような、奇妙な間だった。
思い出したように、女は呟いた。
「アオリ・・・・」
「あぅー、暇だよぅ」もう何度目か分からないその言葉を口にして、黒はごろんと寝転んだ。
「時間が過ぎる速さも分からないぐらい暇ね」紫も溜息をついた。
「この、何とも言えない無力感が嫌な感じだねぇ」なんだかなぁ、と青も呟く。
「無力さを、思い知らせたかったんですかね・・・・・雹は。」緑がポツリと呟いた。
なにもできない、というのは一番悔しい事だ。
傍観することすらかなわず、ただ時々刻々と事態が動き、
時が過ぎていくのに身を任せるしか無い。
すべてが、自分を無視して通り過ぎていく感覚。
お前は必要ない、と世界に拒絶されている。
永久凍結。失われたコードナンバー。表に出るはずだった者が失敗作とされた――――
「どした、大丈夫か緑?」こんなに近くにいるのに、仲間が遠い気がした。
絶望しない者がどこに居ると言うのだ。いっそ止めを刺してくれ。
ただ見えるだけの世界なんて要らない。
自分を必要としない世界なんか、消えてしまえばいい。
「そうか・・・・雹は、終わらせたいんです。この悲劇を」
凍結された自分への憤り。自分の存在を無視して進んでいく世界。その全てを。
終わらせてしまいたい。世界も自分も滅びればいい
あの時雹は言った。
『君達に出来ることなんか何も無い』
まさに今の状況がそれである。だが、緑は。
信じていたかった。
この世界を。
誰かが自分を必要としてくれる事を。
いつか必ず「名前」を呼んで貰える事を。
場所は変わって、街の便利屋さん「センプレ」の休憩室である。
「・・・・・それで、どうだったの?」ほとんど少女、と言って良い年齢の女の子が身を乗り出して尋ねた。
「どうもこうもねぇーよ!敵前逃亡して終わり。
うちの社訓に敵前逃亡は死罪!!とか無くて本当良かったー」
安堵の溜息をついているのは、モデラート。
ようやく仕事先から帰還した所であった。
「でも、剣も銃も効かないなんてどうやって倒したら良いんでしょうね?」
「本当に謎だよなー、誰かがどうにかしてくれるのを待つ、って図式はあんま好きじゃねんだがなぁ」
だからって五ヶ国連に混ざるのもアレだし・・・・うーん。
「男の美学ってやつですかぁ?」葛藤するモデラートに、少女はそんな言葉をかけた。
「ははっ、そんな格好良いモンじゃあないなアダージョ」モデは笑い飛ばした。
本当は真実に近かったりするのだけど。
「しっかしお前は本当にねーちゃんに似てないな」
「そーですか?」少女はにこにこしている。
表情が凍てついてしまったかのような、姉のアレグロとは大違いだ。
「・・・いい身分だな、モデ」
背後から声をかけられ、モデラートは振り向いた。
立っていたのは性格悪の相方であった。
「あー、報告お疲れグラン。それで結局どうなったんだ?」
「この件は、人の手に負えないって事だ。結局の所」苦々しげに呟いた。
「人の手に負えないんだったら、誰が解決するんですかー?」呑気にアダージョが呟く。
「そりゃやっぱ・・・・人に有らざる者達が、どうにかするんじゃないのか」
「他力本願の極みだなぁ」
失われた力を使う者、天地の狭間で人と自然を繋ぐ者。
「なんか、身近に一人居た気がしますね」
「あいつは、人間だけどな」
「俺等が調査に行かされたのは、それを証明する為だったんだろう。ナイトウォーカーの局員にしても同じだろう」
「人の手に負えない事の証明、ねぇ・・・・・」なんだか虚しい話だ。
「とりあえずあれだ、お前が今しなければならない事は」「んっ?」
「何、何、何っ!?もう仕事終わったんじゃねーの?」
焦るモデに、グランは言い放った。
「報告書の制作だ」
「はぁー!?お前もしかして、口頭で述べただけだったの?」
「直帰だったんだ、当然だろ」
言い争っている二人を見ながら、今日もセンプレは平和だと思うアダージョであった。
そこはかつて、風の通り道と呼ばれていた。
古の昔、精霊が降り立った場所なのだという。本当か嘘か分からないが、少女はその場所が好きだった。
すこし小高い丘のようになっていて、
眼下には何の特徴もない辺境の―――彼女が生まれ育った村、ドレンテが見える。
何もないこの田舎が、彼女はそんなに好きでは無かった。
でも、この場所は特別。自分が唯一まともに息が出来る場所のように思えていた。
彼女は神を信じていない。
もし神が居るのなら、なぜ親が子を捨てるような不幸が起きるのだ。
全知全能、そんなものは有り得ないと思っている。何かを信じて報われる訳がない、と。
そういう意味で彼女は、村人の為にこの地を去った友人のシスターを尊敬している。
自己犠牲の精神、素晴らしい物だ。
なんだか人生の初めの方から生まれを呪ってばかりの自分が恥ずかしく思えるような清々しさがある。
「風・・・・今日も吹かないのかな」
ここの所、何日も風が吹かない日が続いている。
いつもは心地よい風が吹く筈のこの地にしては異様な事であった。
村の風車も動かない。草木のざわめきも聞こえない。
ずっと当たり前のように、風と共に生きてきた自分たちを、
(精霊様は――――この土地を見捨てたられたのか?)
それとも、見放されたのだろうか。全ての事はこういう風に終わりへ向かっていくのだろうか?
虚しすぎる、と思った。
しかも、見上げた空は厚い雲に覆われどんよりと曇っていて、
そのくせ雨の気配はなくひどく不快な気候だった。
『皆さん、聞いて下さーい!!』
「この声はっ!」がばっ、と身を横たえていた黒が飛び起きた。「赤っ!?」
「貴女、いつの間に外に出たの?」
『いつの間にか脱出していましたわ・・・ってそれどころじゃないんです、協力者が現れました!!』
「きょーりょくしゃぁー?」
「精霊を騙す詐欺師みたいな人だったりしないかそれ?」
『違いますっ!!協力者の方は真っ当な召喚士ですよ!』それはまた胡散臭い職業である。
「それで、具体的にその娘は何をしてくれた訳・・・・・?」
『魔よけと目印を置いて下さいました』
「それって、どーゆーこと?」
あの召喚士が置いていった二つの宝石。それは十三元素で「火」と「草」を司るものだ。
赤の属性である「春」の下に属する者達だ。
それらは赤の力を更に安定させる。
つまり存在を浮き上がらせる目印であり、尚かつ邪気を寄せ付けない魔よけでもある。
「陣を敷くって・・・・・単に六芒星の形を作れば良いだけかと思ってたよアタシ」地味にショックな黒である。
『つまりだ、そいつが現れるのを俺は待ってりゃ良いのか?』
「ブラックさん!!」姿は無くとも口調で分かる。
『要約するとそういう事ですわ。ちなみに言うと私は今アインザッツの街に居ます。そちらは・・・?』
『オレはまだ東国に居るよ。マスターの都合でね』
「地図上だと聖域を中心にして尚かつアインザッツを一点に含んだ六芒星に東国は入らないわね」
なんだか数学の証明問題の答えのような、しかし紛れもない事実を紫はすらすらと述べた。
「予想だけどさ、ブラックは移動するっしょ。主と一緒にね」
青はズバリと言った。ただの勘で根拠などまるで無いのだけれど。
『まぁ、多分そうだろうな。つーか早く出てこいお前等。
オレ達には、時間が残されてんのかどうかも分からん』
「出たいと思ってるよー!!でも自分じゃどうにもならないのっ!」もどかしい。
『だけど、外から救出する手だてが無い以上どうしようもありませんし・・・・・』
『待つしかねぇんだよな、結局の所』
どこかの、誰かの、言葉を。
各々の面持ちが、少し陰った。
もしもこのままずっと出られなかったら、どうしよう?
誰も口には出さなかったが、小さな焦りが生まれた。
『だいじょうぶですわ。世界には必ず私達を必要としている人が居ます』
赤は言い切った。その声は確信に満ちていて、心がほんの少しだけ軽くなった。
「いるよね、きっと・・・・うん」黒は自分に言い聞かせるように、小さくそっと呟いた。
誰にも期待して貰えないというのは悲しいことだ。
そして誰にも必要とされないというのは、
生きる意味そのものに関わってくる割と重大な問題だ。
意味を失った私はどう生きればいい。誰の為にどうやって?
わからない。そして彼女はまた風の通り道に立ちつくす。
(何故なんだろうなぁ・・・・・本当に見捨てられたのかな)
あぁ、私は期待をしているのか。目に見えない存在に。誰でもいい、慰めてくれと。
祈りのような、縋るような、そんな気持ちがあった。
いつでも風は彼女の側にあった。
捨てられていた彼女を育ててくれた老人は、精霊がいかに大切な存在であるかを彼女に説いた。
(どんな時もわしらと共に居てくれる存在だから、感謝の気持ちを忘れちゃいかんよ)
感謝の気持ちを、忘れた訳ではない。
ただ、今この時――――信じるに足る物が失われてしまった時に限って風も止むとはどういう事だ?
何でもいいから信じさせて欲しいのに。
もう死んでしまった老人が説いてきた精霊という存在が、
今日も確かに地上にあると確信したいだけなのに。
世界には何もないのか?信じるに足るものなど何一つ。
(なぁ、世界は今日も色んなものに守られて成り立っとる。
わしらはそれを当たり前のように受け止めているだけじゃ)
忘れてはならない事、と老人は言っていた。
そう精霊は、世界を守り、支えている存在だ。
応えて欲しい。ひとりぼっちになってしまった、今だからこそ。
しかし風は依然として吹かない。
彼女の目からはいつの間にか涙が流れていた。
なぜ泣くのか、彼女にも分からなかった。
だが、どうしようもなく溢れてきて、止まらなかった。
一方、協力者こと召喚士フォルテとその相方ラルゴは。
「いつになったら移動できんのよターコイズ?」召喚士はなにやら不機嫌そうな様子だ。
『想いという物は、人を結びつけるんだよ。もうちょっと待ちなマスター』
「もしかして・・・・精霊さん達の座標の確定に必要なのは「想い」なんですかね」
顎に手を当てながら、ぼんやりとラルゴが言う。
『割と正解だ。あと少しで誰かが呼び出す。それに俺達は便乗するって訳だ』
「なんだか他力本願な話ねぇ」
「でも世の中ってそういうものじゃないんですか?」
連続して流れていく作用。何がきっかけか分からない。だから可能性なんて言葉が存在する。
「まぁ、言われてみたらそうかもね・・・・」
「私は誰とも繋がれなかったのよ。
人としてもう、どうしようもない場所に来てしまったんだわ」
アオリと名乗った少女は、唐突にそんな事を言った。
「元から接点を持ちたいとも思ってなかったのかも知れない。恐ろしかった、あの場所は。
だから―――」
「ここに逃げてきたの?」
「・・・・・・・・どうして分かるの?あなたは、何?」少女は一瞬、怯えるような目をした。
「ボクは、キミと同じで誰とも繋がれなかった者だよ」
「私と同じ?」
下手したらそれよりもっと酷いかもしれない。
「うん。ボクは「いらない」って言われたんだ。はじめて告げられた言葉が“永久凍結”」
破棄してくれた方が、どれだけ良かったか。
いいや、いずれはそうするつもりだったのか。それとも誰かの代用に?
「まぁ今となってはどうでも良い事だけど」
「あなたも独りなのね」
異世界の服を着た少女は、仲間を見つけた嬉しさか、同情か、哀れみか・・・
その全てに当てはまるような、それでいてどれともつかないような表情で笑った。
「ねぇ、世界を滅ぼしてみない?」
甘美な問いかけだ。
自分を不必要とする世界など滅んでしまえばいい。迷うことなど一秒もなく、雹は応えた。
「キミがそうしたいと望むなら、ボクは手伝うよアオリ」
声も立てずに、二人の少女は笑った。不吉な、暗い、笑みだった。
待てども待てども、自分を迎えに来る者などいない。
わかっている。
頭では理解できている。自分がこんな所でつっ立っていても何も起こらないと。風が吹く根拠もない。
まして、死者が蘇る可能性などゼロなのだ。分かっている筈なのに。
(風の通り道に、お前はいたんだよ)
それを知ってから彼女は、もしかしたら本当の親が来ないかと・・・・頻繁に風の通り道を訪れた。
結局いつも現れるのは、彼女を育ててくれた老人だった。
(ほら、じきに夜が来る。もう家に帰ろう)
優しかった。素性の知れない孤児だった自分を愛し、育ててくれた。
あたしは何も出来なかったのに。
特別な力を持たない、ただの人間に出来ることなんか限られている。
死が安らかであれと祈るだけだった。
なんという無力さ。
老人が亡くなってから風も止んでしまった気がする。
「どうして・・・・・?」
何故吹かないんだ。また涙がこぼれた。
(お前の名前は―――――――だから、困ったときに呼んでみると良い)
「聖風グリュネ!いるんでしょう?だったら吹きなさいよっ!!」
まるで八つ当たりだ。馬鹿馬鹿しいと思っている。
自分の名前が精霊の名と同じだなんて、とても信じられる話では無い。
しかし、信じがたいことに。
木々がざわめき、草が揺れ、肌を撫で、髪を巻き上げ―――――風は、吹いた。
つよく、強く。
優しい風が吹いた。彼女の涙を乾かすかのように。
お前の名前は、風の精霊様と同じだよ。ワシはお前を見つけた時、精霊様の加護だと思った。
だからグリュネと名付けた。
戦争で何もかも失い、世間から隠れるように生きてきた。
何のために生きて良いか分からなかったが、死ねないとは思っていた。
それは戦場で散っていった仲間がいたから。彼等の分まで生きようと思った。
捨てられた子供を見つけた時、自分が生きるに値する価値、
それを風の精霊から貰った気がした。
だからグリュネ、お前は風の子どもだ。
生きるがいい。何に囚われることもなく。
ただ一人の人間として。
どこまでも真っ直ぐに。
――――――――風が、吹いた。
「し・・・・信じらんない。まさか、本当に?」
少女グリュネの眼前には背中に小さな羽根を生やし、長い薄緑の髪を三つ編みに束ねた
何とも形容しがたい不思議と半透明に透けた人物が、宙に浮いていた。
『どうも初めまして!風の精霊のグリュネと申します』何だか妙にテンションが高い。
満面の笑みを浮かべている。こっちは涙を拭う暇も無いほど驚いていると言うのに。
「そんな、名前を叫んだだけで出てくるなんて・・・・・」
今まで悩んでた私は何だったのか?
『名前を呼んで下さって有り難う!もうどれほどこの瞬間を待ちこがれたか』
なんだか熱っぽく語っている。
「・・・・まぁ、役に立てたみたいで何よりだけど」さぁてどうしたものか。
少女が頭を掻いたその時、背後から声がした。
「あーっ、発見ッ!!」
吃驚して振り返ると、見たこともない水色の髪の女とやたらと長くて非常識なオレンジの髪の男がいた。
どちらさまですか?と心の中で呟いたけど女の方は自分をスルーして精霊に話しかけている。
一体何事なんだろう。とりあえず、服の袖で顔をごしごし拭いてみた。
あらためて自分の周りを見てみるが、依然として風の精霊と見知らぬ男女は存在する。
目の錯覚などでは無いらしい。
「えーっと、フォルテさんは精霊さんとお話中みたいなので、代わりに俺が説明しましょうか?」
人懐っこい笑顔で、オレンジ髪の男が語りかけてきた。
「あ、ハイ。お願いします・・・・」
これもきっと何かの縁なのだろう、拒否するよりも諦めて受け入れる事にしよう。
爺さんだって、それを望んでるに違いないさ。そうだろ?
「・・・という訳でして、世界平和のためにしばしご協力頂けないかと」
「は、はぁ」真顔でそんな事言われても困るんだけどなぁ、とグリュネは思ったが本人は至って真面目だった。
「状況は大体理解できたんですけど・・・ラルゴさん、私は基本的に何もしなくても良いんですよね?」
いや、何かしろって言われてもできないけど。
「そうですね、精霊さんと宝石二つを周辺に置いて欲しいってだけですから・・・・」
「危険があったりは、しないですよね?」
「あ、それは絶対無いですよ。宝石はちょっと特殊な物で結界にもなりますから」
にこにこしながら語る。この青年は一体全体何者なのだろう。
賞金稼ぎ、と名乗ったがどう見てもただの優男である。
「・・・分かりました」
「宝石はいつかまた回収に来ますので」さらりと言う。
それはつまり、この危機的状況を救える確固たる自信がある、という事なのだろう。
水色の髪の女の事を、ラルゴと名乗った青年は「彼女は召喚士です」とあっさり言い放った。
きっと抜けてきた修羅場の数が違うんだろう。うん、そうに違いない。
「変な言い方かもしれませんが、頑張って下さいね」
グリュネは言った。久しぶりの笑顔と一緒に。
「えぇ、俺も出来ることは限られてるけど頑張るつもりですから、ご安心を」
そうしていつかまた会いましょう。
平和になった世界で。こんな曇り空じゃなくて、お日様の下で。
「よろしいですかね精霊サマ」
『えぇ、本当に申し訳ありません』
「気に病まないで下さい。私にもちょいとばかり世界が滅んだら嫌な理由があるもので」
そう言ってフォルテは不敵に微笑む。
「私ごときで力になれるなら、何だってしてみせますよ」
協力者にも協力者なりに背負っている運命やら行く末があるのだなと精霊グリュネは思った。
そう、人間とはそういう物だ。
だからこそ、先に進める生き物なんだ。
「クリスタル、キャッツアイ。黒き風と聖なる光を司る者よ、我が元に来たれ」フォルテは短く呟いた。
『何の用だ主よ』
ぶっきらぼうに浮かんできたのは黒髪男性の姿を模した宝珠の精、クリスタル。
『あっれぇ、そちらにおわすは風の精霊様じゃないんですかっ!?』
いきなりの事態に驚いているのは、女性の姿を模したキャッツアイだ。
『初めまして、グリュネと申します』風の精霊は深々と頭を下げた。なんと律儀な。
「アンタ達には精霊サマを守ってもらいたいんだけど」
『承知』 『分かりましたっ!』
つくづく飲み込みが早くて助かる。
契約を結ぶまでの間は聞き分け悪かったのなぁこいつらとしみじみ思うフォルテであった。
『よろしくお願いしますね』にこやかに、精霊グリュネは微笑んだ。
会話が途切れて、ぼうっとしている時だった。
ひとり、泣いている少女が見えたのは。
誰も動揺していない所から、他の者には見えないらしく、精霊グリュネは意識を集中した。
なにかを少女は呟いていた。
泣いてるのに、何かに怒っていた。
そばに行ってやりたかった。不思議と、必要とされていると思った。
「聖風グリュネ!いるんでしょう?だったら吹きなさいよ!!」少女が叫んだ。
あぁ、これがそうなのか。
赤はきっと、強い意志で誰かに呼ばれたのだろう。
だからあんなに決然と「大丈夫」と言い切れたのだ。
大丈夫。ここにいるよ。
だって私達の居場所はあんな閉ざされた場所じゃないもの。
愛すべき人々が住む地上こそが、自分の居場所。
「なんだか一瞬で去っていきましたね、あの人達・・・・・・・」グリュネは呆れたように呟いた。
『主は常に多忙だ』
『いつもあんな感じであちこち飛び回ってるから気にしちゃ駄目だよ〜』
うーん、ムダに暗いのと明るいのと、謎の同居人が増えてしまった。いいけどさ、別に。
・・・・・それにしても、精霊と自分の名前が同じである以上どう呼び分けをすれば良いのだろう。
(まぁ、何とかなるか)
奇妙なことに、自分がすこし前向きになった気がした。
変化を全く恐れない、風の如く過ぎ去ってしまった二人の旅人のせいだろうか。
「さーて、御飯でも作ろうかな」もう食べさせてあげる人はどこにもいないけど。
生きていこうと思った。生きていける、そう思った。
ねぇ爺ちゃん、そっちはどんな感じだい?仲間には会えたのかな。
私は不思議な縁で、精霊さんと出会ったよ。
そうしてこの先何があっても、生きていける気がするよ。