てるてる編・其の八



魔術とは、純粋な祈りの力から生じるもの。
(むかしは誰でも使うことが出来たのよ)
母がまだ生きていた時に聞いた言葉。

「どうして今は使えなくなったの?」
「目隠しされているようなものね」
ほんの少しだけ、目隠しを薄くする訓練が要るのだ。
「だけど・・・本質的には何も変わっていないのよ。遠い昔から、何一つ」
世界を成り立たせているのはそこに生きる人々の、意志の力なのだから。



                  

 鬼札 

火球が落ちる数日前に話は戻る。
ガイセルドとプラチードの国境上にある険しい山中、鬱蒼と茂る木々の間に塔がある。
大地に突き刺さっているかのようなその塔は両国の人々に古くから恐れられている。
あの塔には、魔女がいる。
近付いただけで呪いをかけられ、殺されてしまうのだと。

その塔の主、クリヴィス・ア・カートル・シュール・インカンテーションは不機嫌だった。
気持ちよく眠っていた所を、起こされたからである。
ずるずると長い黒髪をかきあげて、さも面倒臭そうに割り符を手にした。

『お願いがあります』
「何だ、戦に出ろとでも言うのか?」
『そんなくだらない事のために、あなたが塔から出るとはとうてい思えませんがね』
「分かっているではないか。エニグマ、して何用だ?」

『あなたも感じているのではありませんか、氣の流れが捻れていることを』
「大精霊の不在、か・・・・」
「その通りです。あなたは全く動く気がないようなので私が依頼します」
言い切られてしまった。
まぁ、実際にその通りなのだが。
「・・・依頼、だと?」
『あなたが力を行使するには、それなりの建前が要るのでしょう?』
そんな事は一度も話さなかったのに、何故知っているのだろう。
『聖地に居る者が、もし地上に危害を加えるならば―――
 どんな手段を使ってでも、それを退けていただきたい』

クリヴィスは唇の端をゆがませ、声もなく笑った。
「禁じ手無し、か。良い条件だ」
『では、報酬は要相談ということで』
「・・・そんなもの私には意味もない。さっさと自分の成すべき勤めを果たせ」
『ありがとうございます。それではまた』

符から光が消えた。
「やれやれ・・・もう暫く、眠るとするか」
魔女は超がつくほど、マイペースだった。

                  

 意志は砕けぬ巌の如く 

さて、時は動きだし緑の街ブルストヴェルク。
居食屋の外で店員はパニックに陥っていた。
「うぁああ、どうしましょうバイト君っ!!」
「どーにもできないっスよ!祈るしかないですっ」
冬の精霊は姿を消し、宝珠の精も火球に向かったきり帰ってこない。
(こんな時、もしボスがいたら・・・・)
「人間いつかは死ぬんだから、こわくないよ♪」とか全く笑えない冗談をとばしそうだ。
ぎゅっ、とお守りの銀時計を握りしめる。
神様、どうか助けて下さい!
せめて借金を返済してから死にたい。
・・・それは13歳の少女にあるまじき願いであった。


火球は標が置かれた6カ所だけを目指していたのではなかった。
周辺のあらゆるものを壊しつくしてしまいそうな、大量の隕石が街に迫っている。

リメンブランツァ港の人々は呆然と空を見上げていた。
海に落ちるか命中するか、分からない。
「全部斬れたら、英雄だな」モデラートが呟く。
「ああ確かにそれは言えてる。お前も試しに撃ってみたらどうだ」
おなじく火球その2が落ちてくるのを見ながらセンプレ局員はしずかに剣を抜いた。


「たいせつなのは信じること」
・・・止めてみせる。
ドルチェは天に向かって手の平をかざす。


「何だか面倒な事になってやがるなぁ」
「ちょっとリットさん落ち着きすぎじゃないですかっ!?」
「長生きしてるからな」そういう問題では無い気がする。
「いーですよねっ魔族は頑丈さがとりえだからっ」
「頑丈さ意外にとりえが無いみたいに言うなよ・・・」
ちら、と上空を見てリタルダントは思った。
(下手打ちやがって、あの半人前・・・)
やっぱり魔具をくれてやれば良かった。
次の瞬間、教会の尖塔の上にいた。
そうして何かに気づいたように、空ではなく地上を見た。
「何だこの力は・・・?」

どこからそれが放たれたのか分からない。
己すらも飲み込み、消し去ってしまいそうな圧倒的な氣の力。
「まさか―――」
見上げた空に、垂直に光が伸びていた。
その光の源は恐らく、アインザッツの街。

                  

 魔女の剣と解放の唄 

軌道を変えられた星の存在を察知し、クリヴィスは立ち上がり、水盆に手を浸した。
その手を水から引き上げた時、握られていたのは身の丈ほどもある剣。
「使えるものは何でも使う気でいるな・・・あやつは」
ため息をついて、剣を一振り。
散った水が床石に飛び、それを介して
複雑な呪いが魔女の周囲を巡りながら広がってゆく。

(・・・力には力を。幸い目印がある・・・立ち向かおうとする意志も)

『地に集い、地に潜む力よ、汝の望む形を成せ。
 季の風、樹の雫、舞え、集え、唄え――――――』
その呪は龍穴に眠るの力の解放を呼びかける。
長き時間 巡り続けた恵みの力。

『歓喜の歌を』

クリヴィスの唇から紡ぎ出されるのは全て神代の言葉。
地上で知るものは彼女以外に存在しない。
この星そのものに呼びかける直接的な言葉。

魔女は手にしていた剣を陣の中心に突き立てた。

『意を抱く者の剣先に集い、
 落ちゆく星の力を糧に、標の力を解放せよ。
 吾が名を持ちて、人々の盾となれ』

そして魔女は、星を巡る氣に同調する。
大陸二分戦争末期、プラチードの大統帥が追い求めた古代魔法は存在した。
この塔そのものが世界のあらゆる場所から氣の力を吸い上げている。
吸い上げることができるなら、解放することもできる。
クリヴィスが唱えた呪は、力の解放を促す。

『吾が名はク=リヴィス
 すべての源を司るものなり』

剣がひとりでに沈む。魔法陣の完成。
それを合図にしたかのように、召喚士が宝珠を置いて回った6カ所から
目に見えぬはずの氣の力が解放された。
ただし、それはあまりにも大きな力だったので・・・
人々は初めて“氣”を目にすることとなる。

                  

 混乱の最中に 

ラグタイム港の人々も、荷を放り出し、駆けた。
「なにあれっ、こっち来てるっ!?」
「妙にデカイんですけど!」
「つーか、まだ死にたくないぃいい!!」
「逃げても同じじゃねぇか?」ぽつりと男が言った。
「それは言えてるかも。ひとつ向き直ってみようかしらヘジテイト」
「良い案だな、アルシェ」
ナイトウォーカーの局員二人は、真っ昼間に堂々と剣を抜いた。
「死ねない理由なら沢山あるんだよなぁ、残念ながら!」


ソアーヴェでは夕暮れ時の浜辺を走る人影があった。
「死ぬときは一緒だよハニー!」
「ええダーリン、愛は不滅よっ!!」
手に手を取り合い走っている。暑苦しいことこの上ない。

「おいっ、逃げろよばーさん!」
声をかけられたが、占い師グラーヴェは動こうとしなかった。
(この光は・・・)
水晶玉に映りだしたのは、膨大な氣の力。
いままで感じた事のない強大な力の解放が成されている。
「空を見よ」「はぁっ?」
グラーヴェに言われて、男は思わず空を見上げる。

    「なっ・・・なんだありゃ?」

異変がおきた。
ぴたり、と隕石が止まった。

「あれは・・・・・・・“龍”じゃ」
大地を巡る力そのもの。
その身は光に覆われ、実体を持たないという。
火球を止めた龍は神々しく輝き、夕暮れの街を照らす。
まるで日の出の光のように。

龍穴から立ち上った光は火球に向かい、分かれ、その巨大な石の固まりを止めた。
あらゆる場所に現れたその龍を、人々はただ畏怖と共に見つめている。

                  

 落つる星、光の龍 

「・・・これは・・・一体」
雹は目をみひらいた。
なぜ星が空中で動きを止める?
彼女が命じたのは標と周辺の破壊だ。
「ボクの邪魔をしてるのは・・・召喚士だけじゃ無かったっていうのか!?」
新たに星を落とす。
だが大地から現れた光によって全て阻まれ、隕石は地に落ちない。
忌々しい光。みえない手で誰かが守っているみたいだ。
あれは・・・あの光は、一体何なんだ?


「総帥、今の内にお逃げ下さいっ!」
「・・・成る程、どうやら私は最高の建前を与えたようだな・・・」
「な、何言ってるんですエニグマ様っ」
「ああもうアイリッヒが居ない時に限ってどうしてこんなっ」
城の者はすっかり狼狽えていたが、総帥だけがただ一人不気味なくらいに落ち着いていた。
「あの光、星を喰らっているな」
「えっ?」
「何あれ・・・段々小さくなっていく」
エニグマは小さく呟いた。
流石は“悪意の魔女”だ、と。


『まさか、吸収しておるのか?』リンケハントが呟いた。
刀を天に向けたラルゴは、己の力とは異なる力が刀に宿っていることに気がついた。
これが、龍穴に集っていた氣の力・・・!
(悪意を砕いてくれ)
ラルゴは龍に向かって小さく祈った。


「汝の浅はかな攻撃など、この地に潜む力の一部に変えられる」
クリヴィスは完成した陣の外に立っている。
彼女が悪意の魔女と呼ばれるのは、呪詛のちからを使うことができるからだ。
あらゆる人の心を呪いに組み込む事ができる。
敵の悪意も論外ではない。人々の恐れまで力に変える。

・・・ゆえに彼女は“悪意の魔女”と呼ばれる。
魔女としての名はク=リヴィス。
その意味するところは『死を克服せし者』

                  

 白地図の真ん中で 

精霊としての力を取り戻したてるてる達は、再び邂逅していた。
「あれっ、ここどこ!?」「流星はどうなったんだっ」
「台風の目の中みたいな・・・イヤーな空間」
なんとも不気味な静けさで、ゆっくりと大気がうごめいている。
「うちらの管轄外の力?なんだこりゃ・・・・・・」
「皆さん、あそこにリーダーがっ」赤が指差した。
「なんだありゃ・・・」
膝を抱いた紺の身体の周りには、幾重にも連なる呪。
「リーダー!?」
呼びかけても身じろぎ一つしない。ただ声だけが頭に響いた。

        『逃げて!』

「「「はあっ?」」」
緑と黒と青は、奇麗にハモってしまった。
ほぼ同時に無数の真空刃が飛んでくる。

ブラックが防御壁を作り出し、攻撃を弾く。
「雹の仕業なのか、これも・・・?」
「あの呪いは魂の時を止めるやつよね、確か」
「でもでもっ、うちらもともと精霊だから魂なんかないよねぇ?」
「無いと思ってるだけで、実はあるのかもな!」再びブラックは真空刃をふせいだ。
「綻びだらけじゃない、あの呪」「なんで中途半端な術を沢山かけてんだろ」
「あれくらいなら私達で・・・っ」
紫と赤が素早く綻びに力をぶつけ、呪詛を断ち切った。

「やったぁ!」「これで、リーダーも元に・・・」
紺に駆け寄ろうとした黒の眼前に、炎が広る。
「え・・・・・・!?」
青がとっさにかばい、一言。
「こりゃ、罠だね。どうやら敵さんは同士討ちを狙ってるみたいだ」

最悪の推理を口にし、その場に倒れた。

                  

 灯火 

ひとりの青年が疲労困憊した様子でこの場所に辿り着いた。
遙かな昔、この世界を創造した神が作ったといわれるこの宮殿の祭壇に。

(いいかい?君はあらゆるものを照らす光になるんだ)
遠い昔に誰かと交わした約束。
どんなに時が流れても、その言葉が支えだった。
まだはっきりしない意識の中、誰かの呼ぶ声がした。

『常しなえに地を照らす光を与えよ』

その言葉で、ようやく外に出ることができた。
長かった。外の様子が分からない事が辛かった。
あの子も同じ気持ちだったんだろうか。

在るべき場所に戻り、氣の歪みを実感した。
(ありゃ、私も制服姿のまんまだ・・・)
器はどこに行ったんだろう?
そう思った途端、空の器に駆け寄る仲間の姿が目に浮かんだ。
「逃げて!」
とっさに呟いたが、その声は果たして届いたのだろうか・・・?

(困ったなぁ。さっさと皆と合流しなきゃ)
だが、氣の力が足りない今、できることは限られている。
彼女は地上に向かった。

『そこのおにーさん』
「・・・どちらさまですか?」
カント=コンフィナリスは寝ている自分に声をかけてきた半透明の存在をまじまじと見た。
紺色の髪と目。なんだか分からない服を着ている。
『えーとね、聖灯の番人みたいなものだとおもってくれるかな?』
「はぁ」
『君が新しい守護者くんでしょ?』
「そうだが・・・何か用ですか」
番人と名乗る存在は、異様にノリが軽かった。
『ひとつ、誓いを立ててくれないかなぁ』
何たって人に必要として貰わなきゃ存在できないわけだし。

きっと守護者なら新しい名前をくれる。
紺にはその確信があった。

                  

 眼前のキセキ 

突如現れた“龍”は世界のあちこちで火球を消し去った。
正確には、粉々にして己の内に取り込んでしまったのだが、
地上にいる人々には消し去ったようにしか見えなかった。
そんな事は知らず、眠りの中にいたひとも居る。
だが、龍を目撃した人々の中には「逃げよう」とか
「恐ろしい」とかそんな気持ちがすっかり無くなり、
じっと空を見上げていた。
祈りの言葉を呟く者もいる。
ひざをつき、涙を流すものもいる。
何なのかは分からない。
それでも何かが自分たちを守ってくれた。
龍が消えるまで人々は、その場に呆然と立ちつくした。

「なんか・・・すげーもん見ちゃったなぁ」
「刀抜いたまま動けないなんてことがあるんだな」
かちん、と愛刀を鞘に納めてグランディオーソは呟いた。

「驚いたー、向き直ったとたんあんなもんが出るなんてっ」
「なんだったのかしら・・・」
「局長なら何か知ってるんじゃねぇか?」
「うーん・・・知っててもあの人は何も言わないと思う」
ざわめきを取り戻した港の中を、何気ない顔でアルシェは歩いていく。

半分魔属の少年は、しばらく空を眺めていた。
「・・・神代の楔は未だ健在か」
滅びたと思っていた物が、時を経て人助けするとは妙なものだ。
(にしても、あの半人前はどこで何してんだ?)

『危機は去ったか・・・しかしあの召喚士の娘は何処に・・・?』
リンケハントの言葉を聴き、ラルゴは改めて周囲を見渡した。
彼女の姿はどこにも無かった。
「残されたのは宝石だけ・・・」
宝珠の精の声も聞こえない。
(いいや、それでも)
ラルゴは確かに聞いたのだ。ターコイズの声を。
フォルテを助ける方法が在るはずだ。
それを探すことが自分の使命なのだと彼は思った。

                  

 鎖を引きちぎれ 

そこに立っているのは確かに“紺”だ。
てるてる達のリーダーにして、天・・・すなわち太陽を司るもの。
最も強い力を持ち、地上に大きな影響力を与える。

「あんまりじゃねぇかこんなのっ!」
ブラックが声を荒げた。
相手は“太陽”すべてを焼き尽くす炎に勝てる力はない。
「てか、リーダーなんだから攻撃できないようっ」
「青さん、大丈夫ですか?」
「そりゃ大丈夫と言いたい所だけどね、どうしたもんかねぇ」
黒、赤、紫、ブラックの4人は苦戦していた。
攻撃しようにも隙がない。
うかつに近付けば、紺の力で燃やされてしまう。
「考えなきゃ・・・」
「あの状態って、もしかして羊羹の感染なんでしょうか」
「分かんないけど・・・じゃあもしも、うちらがリーダーの真名を当てれたら」
「なにか変わるかもしれませんね!?」
言うなり緑は自分たちの名を空中に記した。

F r u n g
G r n e
N e b e l r e g e n
r a b e n s c h a r z
e i s k a l
l u t r o t

「何でこの字だけ・・・光ってんの?」
「どうしてなのか、前々から不思議に思ってたんです」
「並び替えて・・・解かなきゃ呼べないってか!?」
「おそらく、そういうことだと思います」
紺の攻撃をかわしながら、黒が叫んでいる。
「だれでもいいから助けてーっ!!」

                  

 落とし穴 

そして召喚士は・・・何もない空間に居た。
周囲にはただ渺々と薄暗い虚空が広がっている。
(これが閉ざされるという事なのかしら?)
  困った。
地上はどうなったのだろう。
むくりと身を起こし、右目で氣の流れを読み解こうとする。
(・・・断絶空間)
ここでは術は使えないらしい。 
「汚い手を使ってくるものね・・・」 
溜息をついて頭をがりがり掻いた。
(あの火球、どうなったのかしら。ああ力の使いすぎで気持ち悪い)
立ち上がろうとして、やめた。
さっさとここを出たい。だけど今の自分に力が足りないことを
彼女は実感していた。断絶空間では氣の力を集めることもできない。
(・・・万事休す、か)

情けない。
あれほど「出来る」と言い切ってきたのに
何故こんな所に居るんだろう。
(あらかじめ、陣を完成さないように術を組んでいた・・・)
雹には先手を打つ時間はたっぷりあった。
まんまと引っかかった自分が悪い。

腕を組み、考える。
「さぁて・・・どうしたものか」
思わず口に出してしまうほど、彼女は困り果てていた。

                  

 久遠の別れ 

扉の向こうには、どこまでも上へ続くガラスの階段があった。
アオリはそこを歩きながら、ふと雹の事が気になった。
(あの子は私が塔にいないと知ったらどんなに傷付くだろう)
胸が痛かった。
(だけどあの女の人が言ったように「世界が違う」のだから・・・)
もうどうにもできない。
そんな事を考えていたら、目の前にあの小さな白髪の少女がいた。
不安そうな顔でこっちを見ている。

「アオリ・・・どうしてこんなところに!?」
(私・・・帰らなくちゃいけないの)
「い、いやだっ!おいてかないでよっ」
雹は少女へ手を伸ばした。
しかしその手は虚しく空を切る。
(一緒にいられなくて・・・・ごめんね)
少女の姿はどんどん色あせていく。消えていく。
この世界から。
「待ってよアオリ!ボクは・・・・」
涙が溢れた。
自分は淡い期待をさせてしまったのだと思った。
(わたし、祈ってるわ・・・・あなたが居場所を見つけられるよう)
「そんなものいらない!祈ってくれなんて言わないから!!」
ただ、側にいて欲しいだけなのに。

(雹・・・・ごめんね・・・)

それが最後のことば。
アオリは消えてしまった。
跡形もなく消えてしまった。
この世界から排除されてしまった。
雹の目の前で。

そうして、誰も彼もがボクを置き去りにする・・・。
「君も、いなくなってしまうんだね」
信じてたのに。
雹は目の前が真っ暗になるのを感じた。
ボクにはもうなにもないんだ。

守りたいものも、大切なものも、何ひとつ。
「ふふふ・・・あはははっ」
壊してしまえ。
なにもかも目障りだ。
謎の光はようやく消えた。
もういい。もう沢山だ。
雹はこの広い天地に、再び一人置き去りにされてしまった。

                  


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