「癒しの力を・・・發に?」
なにかの聞き間違えかと思い、シスターはベンバヤシの言った言葉を繰り返した。
「そうだ。君ははなげに浄化の力を与えたんだろ?」
(何故それを知っているのだろう・・・)
相変わららず侮れない男である。
「ふっふっふ、知恵者は何でもお見通しさっ!」
「・・・実際はわぃの能力で、はなげが東国行ったことが分かったからやけどな」
身も蓋もない事実であった。
照れを隠すようにベンバヤシは顔からズレた眼鏡の位置を直した。
「なんぁだ、そういう事でしたか」
「せやで。もっとわぃを褒め称えてええで〜」
「そこで謙遜するとぐっとポイントが上がるのに、わかってないねぇ黄色」
局長は立ち直りが早かった。
「所デ、ワタシノ改造ハ・・・・・・?」
「おっと、遊んでる場合じゃなかった。さぁ皆の衆、真面目に頑張ろう」
「真面目さが一番必要なのは貴方ではないですか?」
「まぁ、えーやないか嬢ちゃん。仕切たがりには、仕切らせたり!」
發の改造はこのように、シリアスさのカケラもなく行われていた。
これで不備があった場合の責任は、仕切りたがりのベンバヤシに行くだろうが、
果たしてどうなることやら。
おなじ頃、研究塔の一階にある食堂。
「要ってのは、存外フツーの人だよなぁ」もそもそパンを食べながらプレツェン。
「そーですかねぇ?うちの局長はかなり変な人だと思いますけど・・・」
常識人のフォルトにそう言われ、少し考えてからプレツェンは再び口を開いた。
「でも、何かしら力を持ってるって事以外は、俺たちと変わらねーだろ?」
「見ただけでは普通の人と変わらんって事か?確かにそりゃ言えてるなぁー」
イディリオが同意した。
「あ、イディリオさんこの魚の薫製おいしいです」
「あんがとよ、トール」密かに料理もできる中年であった。
「俺はさ、アイコン狩りなんて命じられて生きて帰れるか心配だったけど、別に凶暴な奴はいなかったし」
「ただ、移動距離はすさまじかったよなぁー」「そうですね・・・馬車酔いがきつかったなー」
「確かに・・・要の皆さんは姿も国籍も違いますからね・・・」
はなげに関しては、国籍があったかすらも怪しい。
「何か訳があってバラバラになってたのかもしれないけどな」
「だからといって、集まって変化が起きる訳でもねーし」
寧ろちょっぴり楽しそうですらある。
「あ、この前黄色さんが言ってましたよ」トールは黄色と仲良しである。
「何て?」
「仲間の数が増えてきたから、能力を使うのが以前より楽になったらしいですよ」
「・・・・ふーん」
「不思議なこともあるんだなぁ」「ですねぇ」
うなずきあう同僚を横目に、プレツェンはぼんやり考えていた。
(近付けば強さを増す、ということはやはり・・・目に見えない何かで繋がっているのか?)
それが何なのかは分からないけれど。
「十三人勢揃いしたらすごいでしょうね・・・」
「うーん、でも世界の楔と称される人達が一カ所に集まるって・・・どうなんだろうね」
世界には謎が沢山ある。
「ま、期待して待ってよーぜ」
謎の側に立てない一般人には、それしかできない。
聖域の塔、幾重にも続く螺旋階段をグラシィは一人歩き続けた。
「うっとおしい・・・」
前方からはしつこく羊羹製の荊が襲いかかってくる。
「こういうの、バカの一つ覚えって言うんじゃないの?」
愚痴を言いながらも、ざくざくと水晶の針で核を射抜き、荊を砕く。
やはりカントと別れる前に、燃やす許可を得ておくべきだった。
一体どれくらい登ったのか分からない。進めども進めども階段である。
(この塔・・・こんなに高かったの?)
体力には自信があったがそろそろ不安になってきた。
ふと壁に目をやると、先程荊の核を貫いた水晶の針があった。
グラシィは黒い曲刀を抜き、叫ぶ。
「・・・ゲネラルパウゼ!」
刀身から少年の姿が浮かび上がった。半透明である。最初は驚いたがもう慣れた。
『こりゃ、無限回廊だな』
「どれだけ進んでも無駄ってことか」
『その通り』
「解き方は分かる?」
『それが刺さってるって事は、一周したんだろ?』
半透明の少年は、水晶の針を指差した。
「いや、分かんねーけど・・・そういうことになるのかしら」
『来た道を戻ると、どこかに印があるはずだ』
「それを叩き潰せばいーの?」『そういうこった!』
「分かったわ。あんがと」
あくまで先を目指す人間は、永遠にその印を踏み続ける。
印は回廊の中心。それを崩さない限り永遠に彷徨い続けることになる。
『向き直れば必ず何かがあるもんさ』
しみじみと言い残し、ゲネラルパウゼは刀に戻った。
(何の縁か分からないけど、この刀があってよかった・・・)
グラシィは来た道を戻りながらそう思った。
下手すれば躍起になって前へ進み続けたかも知れない。
ゲネラルパウゼは、ある男が残した唯一のものだ。
「・・・礼を言うのは、もう少し先になりそうだけどね」
ひとり、呟きながら、石段を下っていく。
眼下に目をやると、印があった。
(なるほどね・・・)
予想していたよりも、小さい。
てのひらに収まりそうな円の中に、古代文字が書かれているようだった。
(・・・ここより先に得られる物無し、欲にかられ、永劫この地を迷い続けよ)
そして中心に無限を意味することば。
「墓守にでも使ってた術なのかしら。ま、どーでもいいけど」
どんな小さな言葉でも彼女の瞳は見落とさない。
印の向こう側には暗闇が広がっている。
空間の断絶。
いままで歩いていたのは幻想の塔だった。
印の上に晶の力をたたき込む。
まぼろしの回廊は中心を失い、あっけなく消え失せた。
そしてグラシィは、再び階段を上り続けた。
あちこちに同じ術がしかけられているようだったが、
彼女は一度体験した術には二度とかからない。
術の発動印を「急所」と認識することで、彼女に危険を知らせてくれる。
すべてを見抜く視の力。
見切ってしまえば、同じヘマはしない。
(つーか、延々この手で来るって事はそんなに賢い奴でも無さそうねぇ・・・)
臆病な奴に違いない、と彼女は思った。
だれにも来て欲しくないから、こんなくだらない術ばかり巡らせているのだろう。
・・・・・・何故?
なぜあの女は異空間に迷い込まないの?
初めは上手くいっていたのに。
おかしい。
絶対に大丈夫だとフレデリカは言っていた。
だれもここまで来れないと。
塔は羊羹と術で守られているのに。
「どうして・・・?」
思わずアオリが呟いた瞬間、轟音がひびいた。
その音は、アオリに教えているようだった。
遊びの時間は終わりだ、と。