<第26話 策と思惑 −後編−>



シスターはきゅーちゃんとぶーちゃんを癒していた。
彼女の力はあらゆる病に効くようだ。
「たしかに・・・看護婦としてやっていけそうじゃのう」
「東国に居たら神として祭り上げられたかもしれませんね」
(しかし・・・プラチードでは何故彼女の存在を公にしなかったのでしょう)
「やっぱ、アイコン狩りの標的にされるのを避けるためじゃないのかい?」
「何のためにフレデリカは私達を集めようとしていたのでしょう・・・シスターさんは理由を知っていますか」
「ペザンテ城に居れば何か分かるかと思いましたが・・・」顔をあげ、仲間を見渡した。
「今も、分からないままです」
その場が静まりかえった。
(敵がなにを目的としているか、いまいち分からないってのが気分悪いねぇ)
「チュンチュンにも分からないんですか?」
「残念やけど、わぃもわからん・・・」
「んもう、役に立たないですねぇ」ちゆが黄色の頬をつねった。
その時、突然、声が聞こえた。

『おやおや、アイコン共がお集まりのようだねぇ』

「お前はっ!」
「影・・・・・・か」
ちゆは初めて見るその姿。
人の後ろにくっついてくる影法師に目と口だけがぽっかり空いたような、名前の通り“影”であった。
「どうやら映像だけ、飛ばしてきているみたいです」と巫女。
「氣の力が感じ取れないのはそのせいですね」シスターも頷いた。

『それにしても、随分とちっぽけな神様だね』
フレデリカは嘲るように言った。
『頭数だけ揃えてみても、どのみち僕には勝てないよ』
「そんなこと、やってみなきゃ分からないですっ」
映像に向かって、ちゆは一喝した。
『どんなに集まってみても、所詮は烏合の衆だよ』
「何やと!?わぃを馬鹿にするんはえーけど、仲間を侮辱すんのは許さへんでっ!」
びし、と黄色が手を突き上げた。
短いのであまり迫力が出なかったが、気にしてはいけない。

『滅びは止められない。この世の誰にも!』
そう言い放ち、フレデリカは笑い声と共に消え失せた。

「あの馬鹿・・・・・・!!」
呆れた。
いや、呆れを通り越して腹が立ってきた。
(乗っ取られてやがる)
ネコミミは常々影を馬鹿だと思っていたがここまで馬鹿だとは思わなかった。
「今のは・・・宣戦布告かのう・・・・・・」
(おそらくは、そうでしょうね)
「黄色さん、そろそろ教えていただけないでしょうか?」
「あぁ、作戦のことか・・・」
「・・・作戦? もしかしてあんたたち、それを伝えに来たのかぃ?」
「ええ。私はきゅーちゃんやぶーちゃんを癒しに来たんですけど」
「何でさっさとそれを言わないんですかチュンチュン」
「い、いひゃいっ、頬つねんといてや!」
「喋れるものも喋れないんじゃないかい?」同情したネコミミが冷静に指摘した。
「すみません、ついうっかり。よくのびるもので・・・」
(正月に食べる餅のようだ・・・)巫女は密かにそんな事を思った。
そして黄色は語りだした。
不在の影がどこにいるのかも含めて。
すべては仮説にすぎないけれど、希望はまだあるのだということを、
ようやく出会えた仲間たちに語った。


決戦前夜、野営している創造主の元に一羽のフクロウが訪れた。
ぱちぱちとの薪の火がはぜている。
(火を怖がらないなんて妙なフクロウだねぇ)
「なにか、くわえていますね・・・?」 白いフクロウは、ちゆの手の平にくわえていたものをのせた。
「ゆびわ?」
「翡翠・・・ですねこの石は。くれるんですか?」
フクロウは頷くような仕草をして、飛び立った。
夜の闇へと向かって。

「なんだったんでしょう・・・」
「分からないねぇ、でも」
フクロウが持ってきた指輪をじっと見てネコミミは言った。
「石座が金属じゃないね。透明な・・・なんだろう、水晶みたいな・・・」
その言葉を口にした途端、あの殺し屋の姿が浮かんだ。
(翡翠は十三元素の“石”を表す。そしてフクロウは・・・)
この指輪は恐らく、遠く離れた場所にいる十七歳とグラシィ、ふたりの要から分かれた力。

「多分アンタが付けておくべきものだよ」
「そう・・・ですね」
丁度ちゆの中指にぴったり合うサイズだった。
(ちっぽけな神様・・・確かにその通りです。ちゆには記憶も、力も無いように思います)
例えば接近戦では巫女やネコミミのように素早く動けないだろうし、
おじいさんのように物知りでもない。
空間を移動する力も、癒しの力も持っていない。
(それでも、ちゆは終わらせるために来たんです)
世界をあるべき姿に戻すために来た。
(・・・だから、戦います)
失われた命は戻らない。
その理を曲げることは誰にもできないから、せめてこれ以上犠牲が出ないように・・・
(差し違えてでも、フレデリカを倒します)

ちゆの傍らで、ネコミミもまた、決意を固めていた。
(あの馬鹿、絶対に引きずり出してやる)
玉座の間に居るであろう敵が何をするつもりでも、創造主の身は自分が守ろうと思った。

それぞれが、できることとできないことを抱えているけれど、
今こうして集まったのは、きっと補い合うためだ。
(・・・月がじきに満ちるな)
小さく祈った。
すべてがうまくいきますように、と。





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