「空の星だって、闇が無けりゃあ見えやしないよ」
「・・・でもさ、レイ」
「何だい?」
「くらやみと争いが無くならないのと、どう関係があるのさ」
「世界が光に満ちるなら、旅する価値なんてないよ・って話さ」
「・・・やっぱりわかんない」
「苦いものがあるから、甘いものを食べたとき美味しいんだって事だよ」
「・・・・・・ものすごく分かりやすいけど、なんか馬鹿にされてる気がする」

“メーレイデックと銀の砂”





<第27話 それぞれの戦い −前編−>



戦が始まった。
この世界の行く末を決める一戦が。
王都ペザンテには市街地を取り囲むように壁がめぐり四方に門があり、
それぞれの門前で汚染されたガイセルド兵と隣国プラチードの兵が戦っている。


朝早く、創造主一行の元に一人の青年が現れた。
ガイセルド皇帝の従者、フォール・ヴェルツ。
彼は駿馬を人型の要に与えてくれた。
「ベンバヤシさんから・・・皆様へ、と」
「有り難いのぅ。そういえば一つ聞きたいのじゃが・・・帝国の石の門はまだあるのかの?」
「あります。フレデリカもあの門には兵を配置していないようです」
石の門は3代目皇帝が築いたと言われる。開けることはできるらしいが、
あまりにも重すぎるため閉ざされたままになり、観光名所の一つになっている。
「確か門の向こう側は市街地だったね・・・」
「この指輪の力を使えば、一気に市街を抜けてお城まで行けるかもしれません・・・」
ただの人間である従者はその場に跪き、丁寧に礼をした。
「皆様のご武運を・・・お祈りいたします」
ちゆは彼を見つめ、ただ頷いた。
口にするべき言葉があるはずなのに、ついに見つけられなかった。
あとはもう、行動で示すしかない。そう思った。


両軍入り乱れての混戦になっている。
そんな中、創造主一行は南門と西門の間にある石の門へと馬を走らせた。
ちゆは一人では乗れないのでネコミミの操る馬に乗せて貰っている。
戦場の中をひた走る奇妙な一向に気付いたのか、ガイセルドの騎兵が追ってくる。
ついに眼前に巨大な石造りの門がみえた。
(思いの外、おっきいです・・・)
当初の予定では指輪の力で開けた後に、内側から閉めるはずだったのだが・・・
「こりゃ、うちらが通れるだけの大きさの穴開けた方が良いかもね?」
「ちゆも・・・そう、思います」
地上から飛んできた根性ある羊羹をきゅーちゃんが掴み、おもむろに食べた。
(・・・ほんとーに、緊張感が無いですね)
隣で老人が操る軍馬に乗っているぬいぐるみのようなきゅーちゃんは、
どう考えても戦場には似つかわしくないものであった。
「敵が増えてきやがった!」
ネコミミが毒づいた。城に入る前の戦いは避けたかった。

と、いつの間にか一行を囲むようにして反帝国軍の騎兵がいた。
「活路は我々が開きます、あなた方は早く城へ・・・!」
そう呼びかけて、敵に向かってゆく。
「行くよ、ちゆ!」
「はい・・・」もう門は目前だった。

『石の門よ、我等の行く道を開け!!』
ちゆの言霊に反応し、指輪から生まれた水晶が矢の如く突き刺さり、一瞬のうちに石を粉砕した。
(風よ、守りの盾となれ)
ネコミミが風の精霊に祈った。
一行の周りに風の層ができる。砂埃を通過したと思ったら、もう目の前には市街地が広がっていた。
うしろから老人の声が聞こえる。

「儂らはここで敵を食い止める! ちゆ殿は城へっ」
「わかりましたっ!」
「・・・ご武運を祈ります」
「無茶しすぎるんじゃないよジィさんっ!!」
きゅーちゃん、ぶーちゃん、おじいさんの2匹と一人は先ほどちゆが開けた穴の前でくるりと向きを変えた。
「来るが良い羊羹共っ」
(この門は通しません・・・)
要が万一汚染された場合の回復要員として、作戦通りはなげもこの場に残っている。
そして老人は煙管を構え、相棒の姿を思い描き、羊羹に取り付かれた兵に向かっていった。
「いざ、参る!」
手の中には見事な槍。
ただし、後ろには癒し系の2匹を乗せているため、どことなくメルヘンである。


市街地を駆けながら、巫女は思い出す。
チュンチュンが昨日語ったことを。

「これはあくまでも、知恵者・・・ガイセルドの研究塔に居てるベンバヤシの仮説や」
チュンチュンは、そう前置きしてから語り出した。
「影は、あのフレデリカの内側に封印されとるみたいや」

「フレデリカに封印・・・?」
「肉体を乗っ取られてる・ってことかい」
「せや。意識不明の重体な所を勝手に動かされとる、ちゅうこっちゃ」
「精神は・・・どこかで生きているということですね」
(では、影の肉体からフレデリカを追い出せば良い・・・ということですか)
「相変わらずはなげは物わかりのええやっちゃなぁ。その通りや」
ふと巫女は気づいた。いつの間にか自分にもはなげの声が聞こえるようになっている、と。
(東国にいた頃は聞こえなかったのに・・・?)

「でもチュンチュン、影には剣も魔法もきかないんでしょう?どーするんですか」
「一つだけ、方法がある・・・そこの巫女さんが持っとる剣や」
「もしかして・・・七星剣ですか!?」
「陰陽を断つ、と言われとるその剣なら・・・侵入者と要を分けるくらい朝飯前やないんか?」

その場にいた全員の瞳が、巫女の持つ東国の“七星剣”を見つめた。
刀身はただ涼やかにきらめき、柄の近くに打ち込まれた七つの石がわずかに光った。

「確かにこの剣からは・・・不思議な力を感じます」
シスターがおごそかに言った。
「・・・やってみる価値はありそうだねぇ」
「私もそう思います」
「うむ、この七星剣ならあるいは・・・」
巫女は剣を鞘におさめた。
「フレデリカは王の間に居てる・・・城の一番奥や」
「開戦は明日、と聞いています。5ヶ国連合反帝国軍がフレデリカを討つために戦をしかけるそうです」
「せやけど、ガイセルドの兵は羊羹で操られとるからなぁ・・・」
「あの総帥が何の手もうたずに出兵するとは思えぬが」
煙管をふかしながら、老人が言った。


その夜、巫女は七星剣を見つめながら自分の数奇な運命を思い返した。
厄星と言われ疎まれた。母とも別れ、行き場を探していた所を五つ星に救われた。
(もしかしたら・・・このために与えられた力なのかしら?)
陰陽を分かつ。正しきものと悪しきもの。
この剣を抜くことが出来るのは七つ星だけである。
(わたしに影を斬れるのか・・・本当は分からない)
影に会ったことはない。
だから不安に思っていても仕方がない。
居合いの極意は音を斬ることだ、と誰かに教わった気がする。
(・・・やるしかないんだ)
刀を鞘に納め、祈るように抱きしめた。


ネコミミは戦場で反帝国軍の兵士の武器に奇妙な呪符が貼られていることに気付いた。
(東国の文字みたいだった・・・羊羹への対策なんだろうな)
さすがに抜け目無い。
呪符の効果までははっきり分からなかったが、羊羹を斬っても分裂していなかったように思う。
(たぶん、あの武器を持ってる事自体が汚染を遠ざけている・・・)
理屈は分からないがそのように感じる。
(それにしても、戦いを前にしているというのに、自分がこんなにも落ち着いてるとは思わなかったねぇ・・・)
不思議な気分を噛み締めながら、一同は城へ向かう。


「さて、そろそろ僕らも行こうか」
研究棟でベンバヤシはチュンチュン、シスター、發をぐるりと見渡した。
ふと、自分一人ではどうにもできなかったことを乗り越えることができたのは、
至らない自分を支えてくれた仲間がいたからだと思った。
「せやな・・・ちゆ達も城下町に入ったみたいやし」
「行キマショウ・・・」
發を持ち上げて、シスターが溜息混じりに言った。
「・・・あなたの仮説が当たっている事を祈るばかりです」
言ってくれるじゃないか。
「ま、見てのお楽しみってとこだね。いままで協力ありがとう」
眼鏡の奥のまなざしが、妙に優しかった。
「・・・お礼を言うのはまだ少し早いと思いますけど」
「違いない」
「ほな、行くで〜!」
チュンチュンが短い足で研究棟の扉を蹴った。


外壁の外では羊羹に汚染された兵と只人が戦い、
そして内側ではこの世にあらざる力持つ者と、狂った侵入者の戦いが始まる。
『終焉の幕が開く。ようやくだ・・・』
フレデリカは真っ暗な王の間で、ひとり不敵に笑った。





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