「時々思うな。誰かが自分の変わりに生きてくれねーかって」
「まぁ、贅沢な悩みねぇ〜」
「長く生き過ぎるとそう思っちゃっても仕方ないのかもしれませんね」

そんな会話を酒場で交わしたあと、
影は夜道で足を止めた。
「・・・・・・誰だ?」
『望みを叶えてやる。貴様は眠るがいい』

それはどこかで、聞き覚えのある声だった。
思い出せないまま、影の意識は闇の中に落ちていった。





<第28話 煙の向こう側>



真っ暗な空間に、
ひとすじの光が射した。
戻るべき時が来たのだと思った。
その光に手を伸ばす。

既に過去との決別は成された。光の中に扉が見えた気がする。
『お戻りなさい。 あなたの世界へ』
そっと誰かの手の平が重なる。
開かれる扉は、いつでも未来のために。
影は光に包まれた。眩しさに目がくらむ。
とうの昔に終わった物話に振り回されていた自分を、愚かだとは思わない。
(多分、必要なことだったんだ・・・・・・)


ちゆが指輪の力で羊羹製の竜を石像に変えた。
(高ぅ売れそうやなぁ)
チュンチュンは多少俗っぽいことを考えた。
巫女は七星剣を鞘におさめ、影から遠ざかる。
その直後、まばゆい光と共に影がふたつに分かれた。
王の間に煙が満ちる。

「わ、分かれたでっ!?」
「分かれました、ねぇ・・・・・・」
ひゅう、と祝福の風が吹く。
(汚染により力を失っていたこの地の精霊たちが喜んでいる・・・)
ネコミミはそう思った。
(歓喜のうたが聞こえる)
ほかの要には聞こえていないのかもしれないそれが、
シスターの耳には確かに聞こえた。

煙の向こうにそれは居た。
目の前にあるものが信じられない、という顔つきで一点を見ている。
存在するはずのない青色の髪の毛をなびかせた、がりがりに痩せた少年。
「なるほど。君がフレデリカか・・・・・・」
ベンバヤシが呟くと同時に、ネコミミが無言で風の魔法を放つ。
しかし、少年の体には傷一つつかなかった。
「実体がない!?」
「やはり、肉体は向こうの世界にあるようですね」

フレデリカはただ呆然と見上げていた。
今まで自分であったはずのもの。
十三の要の0にして13。
はじまりと終わりを司る“影”を。

「何だ、このガキ」
むんず、と顔面を鷲掴みにした。とんでもない力だ。
(もしかしたら、影も実体が無いから触れるのかしら?)
「影、そいつは君になりすましてこの世界を羊羹で汚染し、滅ぼそうとした者だよ」
「ヨーカン? なんだそれ。まぁどうでもいいな」
恐怖に顔を歪めるフレデリカからぱっと指をはなす。
ごしゃっ、とみじめな音を立て、フレデリカが地面に落ちる。

「馬鹿な、何故お前が出てくるんだ!そんなことはありえないってあいつが・・・・・・」
「・・・あいつ?」
「誰の事や?」

(・・・そうか、あの時の声は)
影は気付いた。
まだ自分が力の抑え方を知らずに、死に場所を探して戦場を巡っていた頃
『愚か者に未来はいならい』
頭の中に直接語りかけるような、あの声。
それは世界のどこかに居る、干渉者。
滅びもたらす者の、挑発の囁き。

「やるならもっとスマートにやれ。回りくどいんだよバカが」
肘鉄が決まったな、と思った次の瞬間、顔面に回し蹴りが決まっていた。
(はっ・・・早すぎて何がなんだか分からん!)
その場にいた全員が硬直していた。
影の動きは明らかに人間のそれを超越していた。人間でないのだから当然であるが。
「ああ面倒くせぇ。おい、お前らどーすんだこいつ」
「影っ!あんたって奴は・・・・」散々迷惑かけておいて何という態度のでかさ。
「ネコミミ、喧嘩は後にしてくれ。今だ、チュンチュン、發を奴に!!」
「りょーかいやっ」
目標は純粋な暴力によってのびている。全力で投げた。
「いっけええええぇ!」
決まった。これで全ては終わる!
チュンチュンはちょっぴり自分に酔っていた。

「・・・創造主は!?」
巫女が我に返って叫んだ。
その声に、彼女がいるはずの場所を見た。

いない?

フレデリカの口元に笑みが浮かんだ。
「切って貼る。ただ、それだけだ」
かざした手の前に、そこにあるはずの無いものが現れる。
「嘘や・・・っ」

ちゆの眼前に、發があった。
首のうしろを誰かに捕まれている。
なんだこれは。

視界が炸裂する。
しろい光が彼女の姿をかき消した。

「馬鹿な・・・・・・!!」

フレデリカにも切り札があった。
空間を切り取って別の場所に出現させる能力。
それは彼が居た世界において、誰もが使える力。
『切り取り』と『貼り付け』

これで終わりだ。
君が僕の声に気付かないのがいけないんだよ?
どんなに画面の向こうで待っても、何一つ変わらぬあの絶望。
光を放たない電球は付け替えなきゃいけないんだ。

つくりだしたものには責任がある。 
変化をもたらさないことは悪であるから、
僕は僕の神様を殺そう。

「さよなら、ちゆちゃん」





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