自らが作り出した世界から、神は去ろうとしていた。
「もし、次にこの地を訪れることがあれば・・・・・・
 その時私は――――」
神が去る瞬間を見守っていた者達には、
最後の声は聞こえなかった。

ただひとり、神を模した姿をした咎人だけが
その言葉を聞いていた。

「・・・その時私は、ただ無垢な存在でありましょう」

真意は分からない。
ほんとうにそんな日が来るのかどうかも。
神は去った。この世にはもう、奇跡は起こらないだろう。
永遠に。





<第29話 輝きの果てに −前編−>



光が爆ぜた。
つい先ほどまで暗闇が支配していた王の間いちめんに光が広がる。

(フレデリカ・・・・・・あんな技を隠し持っていたなんて!)
ネコミミは唇を噛む。
十三の要の誰もが、予想だにしていなかった。
異世界に住む者の力を。
「ちゆーーーーっ!!」
チュンチュンが叫んでいる。
「は、はははははははははっ!」
フレデリカの高笑いが聞こえる。
奴は無事のようだ。
(してやられた・・・・・・)
巫女もまた、警戒を怠った自分を恥じた。
この上ない絶望を感じ始めていたとき。

「この光は・・・?」
シスターが言った。
何かが金色に輝いている。


もともと發は、兵器として作られたのではない。
世界を巡る気の流れを調整するためもの。
あらゆる世界に存在する、運命の十三弦。世界を運命づける力。
完全なる調律を成すことができるのは……

(――――その光は、私を目覚めさせるためにある)

記憶が蘇る。
かつてこの地を去ったときに交わした約束。
(ああそうか、だから私は――)
何も覚えていなかったのだ。
この世界を創り出したということ意外に、なにも。

『もしかしたら、手早い修復が必要になるかもしれない』
戦いの前に、知恵者ベンバヤシは發を改造した。
シスターの持つ治癒能力を用いて、再起動までにかかる時間を短くした。
すぐに次の攻撃に移れるように。
何もかも全てが一度の攻撃でうまくいくとは限らない。
どんな手でもあらかじめ打っておくことが肝心だ。
敵は異世界のもの。
(まだ隠し球があるのかもしれない)
危惧していたことは、現実に起こった。
(だが・・・・・・)
今彼等の前には、まばゆい純白の翼がある。


「もういちど、です」
凛とした声が響いた。
すらりとした体躯、長いピンクの髪。
光り輝く翼、額に光る朱い石。頭上に輝く黄金の輪。

この世を創りし――――神。

(これが、創造主の真の姿・・・・・・!)
誰もが畏怖した。
十三の要としての魂が震えているのが分かる。
かつてこの地から去った神が、
時を経て――甦った。
(ああ、私達はこの方を知っている)
全てを創り出した存在。
善も悪も。
争いも希望も。
そして、十三の要も。

「行けますね、發?」
胸元の小さな牌を外した。
「・・・・・・モチロンデス」

(何だ、これは・・・・・・!?)
こんなはずじゃなかった。
無力な神は、死ぬはずだった。
僕が成り代わってやるつもりだった。
この世界の神に!

だが、
こんなものに成り代われるはずがない。

フレデリカはがたがたと震えていた。
本能的な恐怖。
世界が違うといえど、目の前にいるものが何であるかは分かる。
この世の全てを創りしもの。
人にあらざるもの。

創造主の手元には、美しく輝く蒼い水晶があった。
なにごとか呪文を呟くと、その輝きが白の中へと移っていく。

逃げよう、と思った。
このままでは元の世界に戻されてしまう。
何一つ掴めないまま――――

逃げよう。
逃げるんだ。
逃げなくては。
こんなものを相手にしてかなうわけがない。
青い瞳は、冷酷にフレデリカを見ている。
「うあぁ!!」
震える足でなんとか立ち上がったのもつかの間。
がっしりと首の後ろを捕まれている。
「な、何をするんだ放せっ!」
彼に触れることができる、ただ一人のもの――影は、
片腕でフレデリカを持ち上げ、自分の前につきだした。
じたばたと暴れているが、首にめり込む黒い手は平然としている。
「やっちまえ、創造主。この戦いを終わらせろ」
「影・・・・・・あなた、まさか!」
シスターが叫んだ。ネコミミもつられて言った。
「なに馬鹿なこと言ってんのさ!?」
(だが、彼以外に奴に触れられない以上こうするしか――――)
ベンバヤシは發を見る。文字は赤から緑に変わっていた。
「今終わらせるしかねぇだろうか・・・」
「やめろっ、放せ、お前も死ぬんだぞ!?」
大歓迎だ。影はにやりと笑った。
(もしかしたら俺は、この日のために生まれてきたのかもしれねぇ)
自分は今掴んでいる馬鹿に体をのっとられ、
なんだか色々とあくどいことをしたらしい。詳細は分からないが不愉快だ。
「終わらせてくれ、たのむ」

はじめて彼は、自分のためではなく、
この世界に住む者達のための願いを口にした。
災厄を引き起こした自分が、ただひとつできる恩返しを見つけた。





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