[ent racte]


その光を目の当たりにした旅人は、思い出していた。
燃えさかる炎の中、彼に力を託した“守護者”の言葉を。
(いいか、お前は・・・・我らを繋ぎ止める・・・唯一の、楔だ)
(“灯”を絶やしてはならない・・・絶対に)
(生き延びろ。儂の全ての力を、お前に与える―――――――――)

やらなければならない。何かを、行動で示さなければならない。
水晶から発せられる光を見ていると、不思議とそんな焦りに駆られてくる。
何が出来るだろう。
重過ぎる使命と力だけ、残されて。
「答えてくれ。・・・・俺はどうするべきだと思う?」

旅人と同じく救世主の降臨を現す光に見入っていた占い師は、その問いに顔を上げた。
改めて旅人を観察する。フードの影に隠された瞳をじっと見つめる。
(ふぅむ。真摯に救いを必要としている様じゃな・・・課せられた物の大きさに身が竦んでおるようじゃ)
この占い師、老いてこそいるが歴とした『真の瞳』を持つ生粋の占い師だった。
それは別名『心の眼』『第三の目』とも称される、他人の運命の一欠片を見抜く能力を持つ者の代名詞だ。
「お主の名は――――――?」老婆は、旅人に問うた。
「カント・・・・・カント=コンフィナリス」
「それではカント、お主に・・・小さな導だけを与えよう」水晶玉に手をかざす。
占い師は、流れを読む者。しかし未来は常に不確定で、茫洋としている。ゆえに、伝えられる言葉は限られてくる。

    『灯を護る者よ、“調停者”と共に塔に住まう“鍵”を壊せ』

(何だ・・・・・?全然分からねぇのに・・・・)カントは戸惑った。
(指針が立った様な気が、する)
それまではグラついていた心に、唐突に確固たる意志が宿った様な感覚。
「灯は、再び燃え上がるじゃろう。お主がそう望む限り」
奇妙な感覚に慣れずにいるカントに、占い師の老婆は穏やかな声で言った。
「・・・・そう、か。ありがとうよ婆さん。お陰で前に進めそうだよ」旅人はそう言うと、フードを取った。
褐色の肌に、黄金の瞳。赤がかった銀の髪がこぼれる。その髪と、瞳の色を見て占い師はわずかに動揺した。

(暁をその身に讃えし者―――――聖域の民、エレヴァート!!)

道理で、と思う反面、かの者に待ち受ける運命を思うと思わず顔が歪んだ。
旅人は占い賃を置き去って行く。躊躇いなく、真っ直ぐと歩いて行く。

「女神アークウィングのご加護があらん事を・・・」
占い師の老婆は遠くなっていく旅人の背中に、小さく祈りの言葉を呟いた。
願いは風に乗り、夕暮れの空へと飛んで遙かな地へと消えた。





〜グラーヴェの呟き〜


今日も又、日が暮れる。
「そろそろ店じまいかのぅ・・・・」老婆は誰に言うともなく、呟いた。
結局、今日最後の客はあの若い旅人、カント=コンフィナリスだった。
片付けをしながら、ぼんやりと考える。
(人生における出会いとは、点のようなもの。
 それが重なり合い、連なり、線となり・・・・やがて運命の糸となる)
さらに沢山の人の糸が束になって、世界という名の大きな流れとなる。

「だけどあなたの望むものは、未来にしかない―――――」

もう随分と昔に自分が言った言葉を、急に思い出した。
(だが・・・・こんな事をしでかして、その先に何を望むと言うんじゃろう?)
 急に不安になった。
もしも自分の告げた事が原因で、全ての悪夢が始まったのだとしたら?
(いいや。あの者と対峙した時・・・こんな未来は見えなかった)
だが、人は変わる。それならば、未来が変わるというのも当然の事かもしれない。
「お主に何があったのかのぅ・・・・・影よ」すっかり暗くなった空を見上げながら、呟く。
(ただ今は、動き出した運命の子達の命運を祈ろう―――――)

水晶玉を懐に入れ、占い師グラーヴェは家路についた。

世界は、まだ終わらない。
  そこに住む者達が、希望を捨てていないのだから。






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