馬車は向かう。辺境の地へ。
この世にあらざる力持つ者が、存在する地へ。

「何っつーか“要”ってのは、変な人が多いのかねぇ・・・・?」
「そーかもなぁ。ウチの局長といい、この前の黄色いのといい。
あれが世界を成り立たせるなんて俄には信じられんなぁ」
「たまにゃぁ、まともな“要”に会ってみたいもんだ」
「そもそもあの黄色いのは人じゃ無いしな・・・・」
                                ガイセルド帝国兵・雑談

                                




<第8話 彼女の決断 −前編−>



状況は、深刻だった。

突如現れた帝国の兵士達は、小さな街を包囲した。
目的は一つ。「アイコン狩り」だ。

ガイセルド帝国の西に隣接するプラチード共和国、西部山岳地帯“辺境の地”ドレンテ
高き山々と、深き森に抱かれた至って平和な田舎町である。
これといった名産も無く、有名な土地では無いが、近頃この街を訪れる者が増えていた。
 此処には、この世で唯一 羊羹による「汚染」に対抗する力を持つ者が居るからだ。

・・・・一般に「羊羹」と呼ばれる正体不明の黒い物質が世に蔓延してから、はや3ヶ月が過ぎた。
にも関わらず、未だに「羊羹」は謎の存在のままだった。それ故に、感染したら最後だと人々は恐れた。
感染者に現れる症状は大きく分けて二つ。人を殺したくなるか、死にたくなるかのどちらかだ。
治す方法が無い為、感染者と対峙した人々は途方に暮れた。これは、悪魔の所行だと。
 しかし、ドレンテの教会には不思議な力を持つシスターが居た。
 彼女は元々病気を治したり、傷を癒す力を持っていた。
街で最初の感染者が出た時、人々は真っ先に彼女を呼んだ。
彼女の「癒しの力」は羊羹による汚染すらも消し去った。
それを見た人々は大いに喜び、彼女を“希望の光”と呼び讃えた。

 だが、皮肉にもその事が事態の転換を招いた。
世界各地で「アイコン狩り」を行っているガイセルド帝国兵にも、
“力持つ者”の存在を知らしめる事となったのだ。

(街の人を人質に、か・・・。相変わらず、やる事がえげつない国だわ)
60年前、大陸二分戦争こと「スコルダトゥーラの戦い」で
一応の停戦協定を結んだガイセルド、プラチードの両国だったが
戦いの真相はプラチードの敗北だ。帝国側の兵が無断で王城に進入した挙げ句、
無理矢理取り付けてきた停戦協定を承諾した事に対する国民の不満は大きく、未だに根に持っている者も多い。
(まぁ向こうは何とも思って無いのだろうけど・・・・)
外の騒ぎとは裏腹に、静まりかえった教会の中で一人、そんな事を考えている自分にシスターは苦笑した。
――――――どうしたものか。

彼女は、迷っていた。どんな決断であれ、今下さねばならないのに。




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