そもそも星とは、その者の宿命を示すものである。
連星の加護が強ければ与えられる力も地位も高いが、無い者は低いというだけだ。
これが我が国で当然と成されていた定説。
しかし、目に見えぬ物に全てを決められて良いのだろうか。
星に運命を定められてしまうというのは、悲しいことでは無いのか?
わたしはいつの日か、この無意味な階級が無くなる事を祈る。
引きずり込まれたそこは、明らかに牢獄だった。外側から鍵を掛けられたため、出れそうにない。
(まぁ・・・こうなることは、大体予想してましたけど)
それにしてもここまで筋書き通りだとかえって安心してしまう。
少し気になるのは、あの男の態度だろうか。同類である筈なのに何だか底が知れない。
「あら?」部屋の隅で、なにかが動いている。
あのピンクの生物は、間違いない。十三の要の一つ。
「ぶーちゃん!!」
古来より“大鼻たる獣”と称される、思わず抱き寄せたくなる様な愛らしさを持つ豚である。
(もしかして、アイコン狩りの犠牲に?)
となると、他の要も居るのではないか。牢の中を見渡した。何かが動いている。
よくよく見ると、はなげだった。床をひょこひょこ動き回っていたのですぐには分からなかったようだ。
「先客がいたんですねぇ・・・・」と言っても、人型の要は自分以外に居ないようだが。
とにかく、今は気持ちを切り替えていくしかない。「気長に考えていきましょうか」今後のことを。
鉄格子の向こうでは、美しい月が出ていた。
翌日、久しぶりに良い天気で空は高く風も澄んでいた。
「いよぅ、今日も雑用かい?」
ペザンテ城の敷地内で最も人気の無い、研究塔の前で男は見知った顔に声を掛けた。
「なんですかイディリオさん、なんか用ですか」
ふて腐れた表情を浮かべながら洗濯物と格闘しているのはフォルトだった。
「何か怪しいと思わねぇか、昨日の隊長の言い方」
「あの人はいつでも発言が怪しいでしょう」ついついホンネが出てしまうお年頃だ。
「いや、そうじゃなくてだなぁ。暫く仕事どころじゃ無くなるってのは―――ちょいと意味深じゃねぇか?」
言われてみれば確かにそうかもしれない。
「妙な感じがしますね」今度は一体どんな災厄に巻き込まれるのやら。
フォルトが暗い気分に嘖まれそうになった時、ばさばさばさっと羽音が聞こえた。
「お、来た来た」「鷹っ!?なんでこんな所にっ」
「だって他に手段無いじゃねぇか。嫁からちょくちょく連絡が来るんだよ」
(伝書鳩ならともかく・・・何故鷹っ!?)
余談だが、イディリオの妻子は王都に住んでいないため辛くも難を逃れている。
「まぁ何つーか、これも一種の愛の形よな〜」
「・・・ノロケてないで手伝って下さいよ、洗濯物」
比較的平和に午後は過ぎていく。
そういえば、昨日のシスターさんは大丈夫だろうかと洗濯物を干しながらフォルトは思った。
下っ端である自分は連れてこられた要がどうなるか知らない。知る必要も権利も無いと言えば無いのだ。
(無事だと良いけど・・・・)
日は暮れて、夜。チュンチュンは研究塔の廊下をぼんやりと歩いていた。
「なんや・・・・・?ざわざわするな」胸騒ぎ、とでも言うのだろうか。嫌な予感がする。思わず足を止めた。
闇の中で蠢き、起き上がってくる気配がどこからか漂ってくる。
「やけど――――これは」おそらく今まで誰もが出会った事の無い類のものだ。
取り敢えずベンバヤシの所にでも行くかなぁと思い立ち、チュンチュンは再び廊下を歩き出した。
さて、その時城外ではナイトウォーカーの構成員による最終の打ち合わせが行われていた。
「四手に別れて一斉に上を叩く。ようござんすか?」
うぇーい、と中途半端な返事がまばらに聞こえる。
ああそれと、と付け加える。「ガイセルド兵は極力殺さないように」
羊羹に汚染されている可能性が高いからだ。汚染された者を殺せば、羊羹は次の宿主を求め、暴走する。
「万一仕留めちゃったらどうすりゃいーんスか」
「申告しなけりゃバレないんじゃねぇ?」「そういう問題なのかよ!」
「えー、臨機応変に対応するように」何とも大雑把である。こんなに適当で良いのだろうか。
しょーもない話してるなぁ、殺し屋のくせに。とグラシィは密かに思った。
「闇が静かに緩やかに世を包むように夜を征け」
「我等は夜を纏い、夜を紡ぐ」「そして世界に静寂をもたらせ」
「それでは、各々の健闘を祈る」言い終わるや否や、皆方々に散っていった。
(さて、私も行くとしますか・・・・)
夜征く者達の、宴が始まる。
同じ頃。はるか東方の国、山中の竹林で追う者と追われる者がいた。
ただひたすらに逃げ惑っているのは老人だった。
立派な眉を生やしてはいるが、可哀想なぐらい痩せこけている。
突然の事でどうすればいいか分からないが、とにかく逃げなければならない。
そのことだけははっきり分かっている。
なぜこんなことに?いや、その問いは無意味だ。
状況がまるで飲み込めない自分の愚鈍さが嫌になった。息も絶え絶えに、走っている。
一方、追いかけているのは濃紺色の髪を二つに分けた巫女装束の少女だった。
左手には物騒な刀を携えて、獲物を追うような目で老人を追う。
走るたびに鈴が揺れ、ちりちりと鳴った。
ただ、気にかかるのは異様に血走った目と、それだけで相手を突き刺すような剥き出しの闘争心である。
「まさか、汚染されているんかっ!?」
そんな馬鹿な話があるか。
彼女は、刀を手に追ってくるあの少女は“要”ではないか。
「手間ぁかけさせんなよジーサン。てめぇだって本当は強いんだろ」
ぎらりと、巫女の持つ太刀が光った。
ちらとその刀を目にした瞬間、息が止まりそうになった。あれはっ!
「し・・・・し、七星剣じゃとお!?」この国を護るための唯一無二の宝刀。
扱えるのはただ一人。守護と称され当主の真名を知る、この国唯一にして最高の位を持つ者。
「ななつぼし・・・・」老人は思わず呟いた。
東国の切り札にして、国土盤石の要。
その巫女装束の少女は今――――自分に刃を突きつけている。
これは何かの間違いではないのか。夢なら早く覚めてくれと、老人は心の底から願った。