それは闇より出でて、闇へと引き込み、闇と共に去る。さながら人を狩る魔物。
地の底で蠢く者共。夜の森に潜む者共。深海で静かに息をする者共。
いつまでも消えない乾きに動かされ
血を欲し、戦いを望み、宵を好み、戒めを嫌う。
ただただ純粋な狂気を前に、

我等が身を守る術など無い。

                                




<第14話 闇ノ門・動ク時 −後編−>



ペザンテ城に潜入すべく方々に散っていったナイトウォーカーの職員は思わぬ足止めをくらっていた。
なにかが闇に紛れて襲いかかってくる。形を持たないが故に、酷くおぞましい気を放つもの。
「馬鹿なッ!異形・・・・だとっ!?」一人が叫んだ。
「なんだってぇ?」叫びながらも斬りつける。「フォリア!別次元に潜む化け物だよッ!」
「つーか、なんでそんなの此処に居るんだよ!?」
「知るか!どうせどこぞのキチガイの仕業だろ」刀がきかないらしいので印を組みながら男は言った。
「くらいやがれっ!」轟っ、という爆音と共に炎がほとばしった。
しかし、手応えがまるで無い上に依然として禍々しい気は消えていない。
「・・・・・なぁオイ、倒せるのかコレ?」二発、三発と炎を打ち込み続けるが微動だにしない。
「さぁ。でも、倒すしかねぇんじゃねーの?だってほら、見ろよ」
いつの間にか、城壁ぎりぎりの所まで彼等は退がっていた。
「追い込まれてるし」

(全く、非道い手段に出たものだな)よりによって異形を呼び出すとは。
そもそも異形を呼び出す事は禁忌である。
(影にそんな事が出来るなんて話聞いてないぞ?)とすれば、別の誰かの手によるものか。
嫌な感じがする。裏に大きな悪意が潜んでいるような気がしてならないのだ。
(くそっ、手が足りないじゃないか!!)
どうしろってんだ!という気分に嘖まれながら、ベンバヤシは足を速めた。

牢を後にしたベンバヤシは大急ぎで研究塔に戻り、部下に指示を与えた。
「フォルト君と・・・・それからイディリオ、城の牢屋を守っててくれないか?」
「了解しました」すぐに返事をする辺り、忠義者である。
「あと、プレツェンは屋上から見張り。トールは皆へ塔から出ないように注意を促しといてくれ」
「うぃす」「分かりましたー」
「牢屋?なんでまた、そんな所を」イディリオは訝しんだ。
局長が手にしている獣は牢に閉じこめていた“要”ではないのか。
「あそこには、彼女が居るんだよ」ベンバヤシはそれだけを言って出て行った。なるほど。
「納得できましたか」フォルトが問いかけてきた。
「あぁ、そんじゃ行くか。でも何で今夜は警備が要るんだろうなぁ?」
それが幸か不幸かをよそに、彼等は城外で起きている戦いを知らない。

「開け闇の門。我が元へ集え、夜の眷属達よ」
ひとり、禁呪を繰り返し詠唱する。暗がりの王座に、フレデリカは足を組んで座っていた。
既に召喚は成功しているのだが、何故か呟くのを止められなかった。
これさえあれば恐れるものなどなに一つない。フレデリカは思わず破顔した。
「滅びてしまえ、愚かな人間よ。逃げても逃げても終わらない悪夢を見せてやる」
あんなものを前にすれば、だれも助からない。生き延びれる筈が無いのだ。

四方の門での騒ぎをよそに、中庭で対峙している者達が居た。
「凄いことになってるじゃない?アレを呼び出したのは、嵐をもたらす者なのかしら」
「ご名答。流石は“調停者”と言うべきかな――――久しぶりだねぇ、アルビトラリオ」
「気安く呼ばれる筋合いは無い・・・なんでアンタは帝国側に荷担してんの?一体何を企んでる、知恵者ベンバヤシ」
「あはは、企んでるのは君の方じゃないのかい。アインザッツからわざわざこんな所まで出向いて」
「・・・例えばどんな事を?」
「フレデリカに天誅を下しに来た、とかね」互いに相手を試すような姿勢を崩さない。
ふふっ、とグラシィは笑った。「天誅なんて格好の良いもんじゃ無いわ」
もし自分に動機があるとすれば、ただ一つ。
「復讐みたいなものかしら。八つ当たりとも言うかも知れない」
「君にしては、随分と過激な発言だねぇ」
「まぁそれも、真偽の程を確かめてからの話」
「・・・そのためだけに、僕の所に?」
全くもって理解できない、という顔をしている。かまわずにグラシィは口を開いた。

「そう。他ならぬアンタに、聞きたい事がある」




前へ   戻る   次へ