「室長、まだ七つ星は見つからないのですか?」
がらっ、と部屋の戸を開けるなり水晶末は切り出した。
「あぁ・・・・・私の力を駆使しても、何処にいるのかさっぱり分からん」
こんな事は初めてだ、と小さな呟きが漏れる。
「娘さん、何処に行っちゃったんかねぇ」
畳の上に寝そべり、瓢箪からそのまま酒を飲みながら別の男が言った。
(この人は非常時でも酒を手放さないから、緊迫感が薄れるなぁ・・・・・・)
水晶末は密かに思った。彼の上司達はとても変わっている。
室長はいつも無口で無愛想だし、その補佐役で有るはずの者は大酒飲みだ。
ぜんぜん違うタイプの二人が何故組んで仕事をしているのか。
部下達の間で囁かれる謎の一つである。

彼等は東国における階級の中でも特別な力を持つ『五芒星』だった。
またの名を五つ星とも言うが、要は物の怪が見えるとか、除霊が出来るとか、はたまた占いが出来るとか、
世間から見たら中々いかがわしい・・・もとい、不思議な力を持った集団だった。
それと同時に、六つ星たる当主を守る役目も果たしているし、七つ星に指令を送るのも五芒星だ。
東国各地に屯所があり、人々は何か困り事があればすぐに相談に行く。
ようは街の便利屋さんである。
密かに地方働きしていた頃に水晶末は、夫婦げんかの仲裁をやらされた事があったりする。

そんな事はどうでもいい。
今はあろうことか“七つ星”が行方不明となっているのだ。
五芒星達は総員駆り出され、東国中を探し回っている。
しかし、室長には七つ星の居場所が分かる力があるのに、
今回に限ってどうして分からないのだろう?と水晶末は思った。

「何処へ行った・・・・・?」

いつもは何の表情もない室長の顔が、少しだけ焦って見えた。





<第16話 掴みしは力と戦友 −後編−>



老人は、戦いの最中にも関わらず、昔のことを思い出した。
ようやく戦争が終わった頃だ。自分はまだガイセルドにいた。
(僕たちは忘れなければならない。“意志に呼応する力”は人の手に余る物だから)
そう言ったのは、金髪碧眼の青年だった。
誰かがこの先どこかで踏み違えてもおかしくはない、という可能性を含んだ発言だった。
(カデンツ、どうせなら常に側にあるものに記憶を封印して欲しい)
彼は頼んだ。そうすれば、何もかも忘れてしまってもずっと側に居られる。
(・・・・・・記憶を閉ざすってのは、嫌な感じだな。しょーがねぇ事だけどよ)
傍らに座っていた筋肉質の男が溜息をついた。
後々の人生で振り返ってみても、どうしてもこの武器の事だけは思い出せないのだ。
(お前でも感傷的になるのだな、見直したぞアクセル)
切れ長の瞳に薄い水色の髪をした細身の男が相槌を打った。
(全ッ然誉めてねぇだろフェルマータ)むっとしながら、アッチェレランドは言った。
ガイセルド帝国には、異形すらなぎ倒す最強の騎士達がいた。
炎の剣士カデンツ、延長の剛剣士フェルマータ、快速の斧使いアッチェレランド。
それから、雷の槍手。フォリアに対抗する力を持った唯一の武器“意志に呼応する力”を扱える者達。
彼等は、その強さ故にこう称された。『帝国の四騎士』と。
うら若き20代の頃の話である。

現在、80過ぎにして同じ“要”で有るはずの巫女さん(推定年齢16歳)と絶賛決闘中!!
なんて笑えないナレーションなんだ、と思いながら老人は巫女の攻撃をすべて受け流していた。
何分リーチが長すぎるので、うかつに攻撃に出れば隙を作ってしまう。
そのため防御一線となってしまっている。
「ははっ、面白ぇ!!じーさん、アンタどこの所属だったんだ?アインザッツ?それともラメントか?」
巫女は嗤いながらも斬りつける手を休めない。
夜が来て視界が暗くなればこっちの負けかも、と老人は思った。
「ワシは元・ガイセルド帝国兵じゃ。かつて名を馳せた「帝国の四騎士」の一人ッ!」
(昔の事過ぎて明言するの結構恥ずかしいのぅ)
老人は巧みに槍で攻撃を防ぎながらどうにか答えた。
「あの『スコルダトゥーダの戦い』を終結させた連中かッ!?」
正確には、停戦協定に持ち込んだだけだが、終わりにしたことに変わりはない。
自分は今、伝説に名高い「英雄」の一人と戦っている。歓喜に胸が躍る。笑わずにおれようか?
「ひゃははははっ!私ぁ東国最後の切り札、この国でただ一人、七連星の加護を持つ“七つ星”っ!」
老人の槍と巫女の刀が打ち合わさり、ぎぃんっと耳をつんざく金属音がした。巫女は続けた。
「そしてこれが我が相方、七星剣!」
やはりそうか、と老人は思った。しかし、疑問が残る。
七星剣で人は殺せるのであろうか?
七星剣の保持者“七つ星のこども”が戦うの相手は人間ではない。魑魅魍魎の類だ。
(もしかしたら、死なぬかもしれんのぅ)
『馬鹿野郎ッ、油断して首だけになってたらどーすんだよ主ぃ!!』槍に突っ込まれた。
正しく言えば、雷の精霊なのだが。ちょっと懐かしい気分だ。昔も同じように怒られていたと思う。
(どうすりゃえぇんかのぅ。今のあの子はあの子であってあの子にあらずなんじゃ)
早口言葉みたいな台詞である。
『面倒な事になってるみてぇだなぁ・・・・オレじゃ浄化は出来ねぇし』非常に困った。
なりふり構わず斬りつける訳にもいかないが、このままでは日が暮れてしまう。
老人は逃げ出したい衝動に駆られた。

老人が限界ギリギリで頑張っている頃、
同じように自分の力を余すところ無く解放している者が居た。
ガイセルド城の牢屋から逃がしてもらったはなげである。
彼の能力は世界を布を縫う針のように縫い縮めて行く力――――いわゆるワープ能力であった。
(いかなければ)一刻も早く。
事態はもう、取り返しのつかない所まで来ている。間に合わなければアウトだ。
(どうか、無事で居て下さい・・・・)
祈るような気持ちで、はなげは東国へ向かうべく力を放ち始めた。
ガイセルドからでは少々距離があるが、行くしかない。

「巫女よ!!本当のお主は何処へ行ったんじゃ!?」
そろそろ体力の限界を感じてきた老人は、ついに槍を地面に突き刺し、叫んだ。
巫女が何故かぴたりと動きを止めた。(ホントウノ、アタシ・・・・・・?)
あたしは・・・・ 
           (出て行け、この“ヤクボシ”がっ!)
あたしは・・・・・・
              (守護様の事を、信じてないの?)
あたしは・・・・・・・・?
               (見つけた。君こそが、次の“ななつぼし”だ)

「う、あぁあああぁああぁあああぁあぁっ!!」
苦しい。苦しい。苦しい。頭が割れそうに痛い。私は、何なんだ?
一つ星、と宣告され、厄星と罵られた。それなのに、七つ星?この手に握る刀はなんだ?
だれでもいい。
私が何者か思い出させてくれ。




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