ふと、老人は気付いた。(なんじゃ・・・・?揺らぎのようなものを、感じる)
視覚で分かるものではない、ほんの僅かな氣の流れとでもいうか――――
なにかが揺らいでいる。それが何かは分からないが、或いはそれは、眼前の少女の心なのだろうか。
日暮れが時時刻刻と近付いている。何の手も打てずにいる老人は、またしてもその名を呼んだ。
「七つ星、もう止めにせんか!?」
それは、宣告のようであり、同時に哀願でもある叫びだった。
返事をするかわりに、巫女は刀を振りかざす。
(もはや、力を使うしかないのか・・・・・・?)
老人は、何度目か分からないその考えを、再び頭の中で打ち消した。
彼とその相方が力を使えば、仕留めるなど容易であろう。だがそれは、出来ない。
この少女は“13の要”であり、東国にとってはこの国の守護者なのだから。
ペザンテ城周辺は、もう無茶苦茶な騒ぎだった。
負傷者やら異形やら救護班が入り乱れて、何が何だか分からなくなっていた。
そんな中、フレデリカ目指してまっしぐらな職員が2名いた。
正確には外部の者なのだが、それは置く。
「不気味な城だよな、ココ」
「あぁ、嫌な空気が流れてるな」相変わらず無駄口は健在だ。
「ヤツは王座の間に居るんだろ?」
「そうなんじゃねーの」もうなんか適当である。
警備の兵士らしき者達がウロウロしている中、二人は平気で歩いている。
「つぅかさ、何なのここの兵士。生気もやる気も無いみたいで恐いんですけど!」
言いながら首の後ろに手刀をくらわす。
「俺が知るか!最強の軍隊ったって羊羹で腑抜けになっちまうなら意味ねぇな」
冷静に突っ込みつつ峰打ちをおみまいする。
長い廊下を兵士を倒しながら進み続け、ふと金髪碧眼の若者が足を止めた。
「なぁグラン」振り返る。
「何だ、モデ?」嫌味なぐらい整った顔立ちの相方が平然と立っていた。
「居るとしたら絶対、この先じゃね?」
「・・・いかにも、って雰囲気だな」
眼前の扉は、見る者を圧倒する豪奢なものだ。
それが重々しく立ちはだかっている。まるで中に居る者を覆い隠すかのように。
「行くか」「おぅよ!」金髪の青年、モデラートは威勢良く答えた。
ゴォン、と音をたてて扉が開いた。
「何だ?真っ暗じゃねぇか・・・・・誰も居ないんじゃね?」なにも見えない。
「違う。居るぞモデ」
すでにグランディオーソは刀を抜いていた。
「君達は何かなぁ。わざわざこんな夜中に来るなんて、この僕を倒そうとでも思っているのかい」奇妙な声がした。
まるで聞く者を不快にするためだけに与えられたような声。
「でなきゃわざわざこんな陰気な場所に来るかっ!!」
相方のモデラートはこういう時でも突っ込みを忘れない。ある意味アホだとグランは思った。
「ならば、やってみるがいい!」
清々しいぐらい挑発的な台詞を吐く。
言われなくてもやってやるさ。グランは切りこんだ。狙うのはがら空きの胴体。
もらった、と思った。
太刀は完璧にフレデリカを両断する軌道を描いていた。
(馬鹿な・・・・・!!)
それは、人間を斬った時の感覚としては有り得ないものだった。
何の手応えもない。
フレデリカの座っていた王座だけが真っ二つになっていた。
「剣が、効かないだとおっ!?」
モデラートは反射的に、手にした銃で弾丸を放った。
ぱん、ぱんと乾いた音が数回したが、弾丸は全てフレデリカの体を通り抜けている。
(分かった。これがフレデリカがのさばる理由か)
グランディオーソは、冷静だった。
「全攻撃無効化・・・・・随分と、都合の良い能力を持っているようだな」
言いながら、刀を鞘に納める。
「なんだい、もう諦めるのかい?」からかうように、フレデリカが言った。
「すこし違う。ここでお前と遊んでる程、俺は暇じゃないんでな」
(あぁ!またこの男はいらんでえぇ事をっ!!)
心の中でモデラートは思った。全てにおいて完璧なこの相方唯一の短所は口が悪い事だ。
「へぇ・・・・、僕にそういう口きいちゃうんだ。生意気だねぇ君」
フレデリカの手に膨大なエネルギーが集まっていく。
(案の定敵さん怒ってるしー!!)
「おぃモデ、逃げるぞ」「う゛っ、襟首引っ張んな!息止まるじゃねーかっ!」
フレデリカが術を放ち、バリッという耳をつんざく爆発音と共に、部屋に光が満ちたその一瞬。
窓を蹴破り、夜征くもの達は外へ脱出した。
「ちょっと待て、ここ3階ーっ!!いやぁあああぁああっー!」落ちながら、モデは叫んだ。
ジーザス!!
何で俺の相方って見た目は普通以上なのに中身がこんなに狂ってるんでしょうか。
着地に失敗しながら、モデラートは相方を変えて欲しい気持ちでいっぱいになった。