「我に応えよ、“雷電”ッ!!」
そう叫んだとたん、老人の手にしていた煙管がその姿を変えた。
眩い光と共に現れたそれは・・・・
「や・・・・・・・槍だとっ!?」どう見ても原型を留めていない。
先ほどまでただの煙管だったものが、今や2メートルはあろうかという長槍と化していた。
しかも、老人はそれを平然と構えていた。どう見ても老人の手で扱えるモノには見えないのに。
(軽々と持ってやがる。今まで三味線ひいてやがったな、ジジィ)呆れながら巫女の唇の端が上がった。
「いいじゃねぇか、殺ってやろうじゃねぇかっ!!」
丸腰では無くなった。しかし――――
(の、ノリノリじゃのぅ・・・・)ほんのりと焦った。
向こうは今をときめくヤングなのだ。老いぼれでは太刀打ちできない体力に満ちている。
『オィ。何弱音吐いてんだよ、さっさと片付けちまおうぜ』
かつての相方“雷電”に言われて、老人は怖じ気づくのを止めた。
儂には経験がある。大陸二分戦争・・・スコルダトゥーラで「帝国の四騎士」として異形と戦った経験が。
そう、狂ったモノの相手など十八番だ。実体が無いだけにえげつない攻撃を繰り出してくるフォリアとは違う。
「参るぞ、七つ星!!」
「きやがれっ、ジジィ!」
同じ頃、ガイセルド帝国首都、ペザンテでは相変わらず戦いが繰り広げられていた。
どうにか城内に入ったナイトウォーカーの職員達だが、やはり城内にも異形が蔓延っていた。
「倒しても倒しても湧いてくるなコレ!」「どーなってんだよ。誰か変な術でも使ったかぁ?」
「その可能性は、否定できない」どこからか、女の声。「「アルシェ!!」」
「何だよ、オマエまた単独行動してたのか?」
「そういう事になるかしら。でもまぁ、術を使った証拠があったわ」
「しょーこ、ってまさか・・・・魔法陣敷いてたとか?」
「ズバリ正解。中々に腐った展開だわ。ご丁寧に禁術よ」
禁術に手を出すことは、世界全土で禁じられていることだ。
「あの大魔女ですら手を出さなかったものなのに・・・・知らないって恐いなー!」
「じゃ、これからどうするんだ?」
「術の発動は、術者を倒すか陣を崩さなければ止まらない。二手に分かれるべきかもね」
「そだな。しっかし、オーゴトになってきたなぁ」異形に禁術に、何でもござれだ。
「私達じゃ手が回らないかもしれないわねぇ」そう思ったからこそアルシェは、局長に連絡を取ったのだが。
「じゃ、俺等行ってくるわ」
「あぁハイハイ、気ぃつけて」
「そっちもなー」
(然し・・・・今この場を凌げても、後ろで手を引く者が居る限り堂々巡りだ)
どうするべきなのか。
彼女は、たった一人だけ可能性がある者を思い出して小さな笑みを浮かべた。
(さぁて、あの男は動くのかしら。それとも完全ノータッチかしら)
一体どちらに転ぶのか。非常に気になる事ではあるが、
(とりあえず、任務遂行が先かしらねぇ?)
場所は変わってペザンテ城の中庭。朽ち果てた噴水の近くでぶーちゃんは居心地悪そうにたたずんでいた。
ひとの言葉が何となくしか分からない彼としては、この展開は非常にやっかいかつシリアスなものだ。
今はただ、待つしか無さそうである。
ベンバヤシが口を開いた。
「実はボクも詳しく知ってる訳じゃないんだけどね・・・・」ふぅ、と息をついた。
「アラスター・ディード、彼は羊羹汚染による最初の死者だ。違うかい?」
「・・・・・・その通りだ」
この世界で一番始めに羊羹の被害で死んだ男。
「職業は、運び屋だったっけ。それぐらいしか知らないよ」
チッ、とグラシィは舌打ちをした。
「それじゃ、何で聖地に行くことがディードと関係あるんだ?」
重要な所を省くな、と目の奥で怒りの炎が燃えている。
「・・・彼は言っていなかったかい?変わった女の子を見かけた、と」ベンバヤシが淡々と告げる。
(そうだ、出先で変な女の子がいたよ。見たこともないような服でさー、首には首輪してたんだぜ、首輪ッ!)
何だったんだろうねあれは?迷子みたいな目をしてたよ。彼は確かにそう言っていた。
「あぁ、言ってたわ。なら、そいつを向こうに押し戻すのが私の仕事という訳か」
なんだか体よく利用されてる気がしてきた・・・。
「決して利用とかそういうんじゃないから!本当に君だけなんだよ、今単独で動けそうなの」
心が読めるのか、この男は。
「わかったわ。アンタはアンタで忙しいんだろうしね」やってやるよ畜生。
段々グラシィは投げやりな気分になってきた。
(彼女がこんな発言をするとは・・・?)
なんか人間味溢れてて恐いなぁ、とベンバヤシは密かに思った。
「そうそう。ついでだから創造主にぶーちゃんを届けてくれないかなぁ?」
にこやかなスマイルで、また一つ切り出した。
微妙に腹の立つ笑みだ。
(あー、殴りてぇ)過激な思想をグラシィはむりやり押さえ込んだ。
「どうせ聖地行きの船と、ガイセルドに行ける船が出るのは同じ港だしね・・・」ほんのりと諦めモード。
「宜しく頼むよ」
どうにか仕事を押しつけることに成功し、満面の笑みを浮かべている。じつに正直者だ。
「それでは、アンタに悪意の神のご加護がありますように・っと」不吉に逆十字を切り、グラシィは去っていた。
片腕にぶーちゃんを抱えて。
「急がなきゃ会えないかもねぇ」そんなことを一人、呟きながら。
アルシェはどうなったか、と思ったりもしたが、自分の立ち位置を見失う訳にはいかないので頭を切り換える。
(創造主、ねぇ・・・・側には猫耳が居るんだろーな)
苦手だわアイツ。なんかこう、正義漢だし。
ま・そんな事言ってらんないわね、と思いながら城を出た。
多分きっと、各々が死力を尽くさなければ、この混沌から抜け出すことは出来ない。
――――――どうか月よ、照らしてくれ。真実の道を。