それは何処からか生まれ
止まる事無く 減る事無く 増え続け
徐々に、だが確実に

  我等の世界を蝕んでいく。




<第2話 羊羹ときゅーちゃん>


ちゆが降り立ったその荒野は、およそ生き物の気配が感じられない場所だった。
あまりに長い間雨が降らなかったせいか、ひどく乾いていて、どことなく無力さを思わせる。
辺りを見渡してみるが、枯れ木や岩が所々に見えるだけで他には何も無かった。
眼前にはただ、荒れ果てた大地が続いていた。
「なんだか・・・寂しい風景です・・・」
思わずちゆは呟く。暫く歩いてみた、率直な感想だった。
と、少し先の岩陰で何かが動いた。正体不明の黒い物がこっちに向かってくる。
「な、何ですか!?」咄嗟に杖を構える。
まだ距離がある・・・いざとなれば呪文を詠唱する事も出来る筈だ。
それは、一辺が20センチ位の黒い立方体の様だった。動く事を除けば。

(まさか・・・・・意志を持っているのですか!?)

そう確信出来る程、はっきりと。「それ」はちゆの方へと向かっている。
(先手必勝です!!)ちゆは目を閉じた。
精神を集中し、短く呪文を唱える「炎よ焼き尽くせ!ちゆファイヤー!!」
杖を振りかざすと同時に目を開く。魔法により空間に生じた炎が敵を包み込む。
敵は動かない。どうやら仕留めた様だ。
ホッとして正体不明の敵に近寄ってみる。黒い物体からは、何故か甘ったるい臭いがした。
「こ・・・・この臭いは・・・」
  ・・・・・もしかして? ただの通称だと思っていたのだが。
「敵の名は、羊羹ですか・・・・」溜息混じりに、ちゆは言った。

なんとか荒野を抜けると、眼前に緑豊かな森が現れた。
川も流れている。この辺りはまだ平和なのだろうか。
そんな事を考えながら、川沿いに森の中を歩いていると、
川の方から何かが泳いでいるような音が聞こえた。
「何がいるのでしょう?」気になって、川に近付いてみる。 すると・・・・・・

「きゅう!」
そこには、見覚えのある真っ白なアザラシが一匹。
「きゅーちゃん!」思わぬ再会に、顔をほころばすちゆ。きゅーちゃんも同じく嬉しそうだ。
呑気に川に浮かんでいたきゅーちゃんを、ちゆはまじまじと見つめた。
「う?きゅーちゃん何食べてるんですか?」
「きゅう、きゅう!!」何だか幸せそうな鳴き声だった。
美味しいらしい。しかし真っ白なきゅーちゃんが手にしている物は、どう見ても・・・
「ま、まさか、その黒い物体は・・・・」
  ・・・きゅーちゃんが食べていたのは、紛れもなく黒き悪魔、羊羹だった。
「そ、そんな物食べたらお腹壊しますよ・・・・?」
「きゅう!」きゅーちゃんは、高らかに鳴いた。平気!!と言わんばかりに。
   ともあれ、甘党のアザラシという世にも珍しい旅の仲間が増えたのである。







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