それは何処からか生まれ
止まる事無く 減る事無く 増え続け
徐々に、だが確実に
我等の世界を蝕んでいく。
ちゆが降り立ったその荒野は、およそ生き物の気配が感じられない場所だった。
あまりに長い間雨が降らなかったせいか、ひどく乾いていて、どことなく無力さを思わせる。
辺りを見渡してみるが、枯れ木や岩が所々に見えるだけで他には何も無かった。
眼前にはただ、荒れ果てた大地が続いていた。
「なんだか・・・寂しい風景です・・・」
思わずちゆは呟く。暫く歩いてみた、率直な感想だった。
と、少し先の岩陰で何かが動いた。正体不明の黒い物がこっちに向かってくる。
「な、何ですか!?」咄嗟に杖を構える。
まだ距離がある・・・いざとなれば呪文を詠唱する事も出来る筈だ。
それは、一辺が20センチ位の黒い立方体の様だった。動く事を除けば。
(まさか・・・・・意志を持っているのですか!?)
そう確信出来る程、はっきりと。「それ」はちゆの方へと向かっている。
(先手必勝です!!)ちゆは目を閉じた。
精神を集中し、短く呪文を唱える「炎よ焼き尽くせ!ちゆファイヤー!!」
杖を振りかざすと同時に目を開く。魔法により空間に生じた炎が敵を包み込む。
敵は動かない。どうやら仕留めた様だ。
ホッとして正体不明の敵に近寄ってみる。黒い物体からは、何故か甘ったるい臭いがした。
「こ・・・・この臭いは・・・」
・・・・・もしかして? ただの通称だと思っていたのだが。
「敵の名は、羊羹ですか・・・・」溜息混じりに、ちゆは言った。
なんとか荒野を抜けると、眼前に緑豊かな森が現れた。
川も流れている。この辺りはまだ平和なのだろうか。
そんな事を考えながら、川沿いに森の中を歩いていると、
川の方から何かが泳いでいるような音が聞こえた。
「何がいるのでしょう?」気になって、川に近付いてみる。 すると・・・・・・
「きゅう!」
そこには、見覚えのある真っ白なアザラシが一匹。
「きゅーちゃん!」思わぬ再会に、顔をほころばすちゆ。きゅーちゃんも同じく嬉しそうだ。
呑気に川に浮かんでいたきゅーちゃんを、ちゆはまじまじと見つめた。
「う?きゅーちゃん何食べてるんですか?」
「きゅう、きゅう!!」何だか幸せそうな鳴き声だった。
美味しいらしい。しかし真っ白なきゅーちゃんが手にしている物は、どう見ても・・・
「ま、まさか、その黒い物体は・・・・」
・・・きゅーちゃんが食べていたのは、紛れもなく黒き悪魔、羊羹だった。
「そ、そんな物食べたらお腹壊しますよ・・・・?」
「きゅう!」きゅーちゃんは、高らかに鳴いた。平気!!と言わんばかりに。
ともあれ、甘党のアザラシという世にも珍しい旅の仲間が増えたのである。