一度分かれた力は、永遠に一つになれない。
しかし元々が“一”であったのならば、
力はいつか集う。
必ず集う時が来る。

なぜならば、力が力を求める事は摂理。
元が同じであればこそ引かれあい、より強くなるのは必然。

そうして集った力が、一つの時代を終わらせた。

リンケハント著「神代の終焉」より




<第22話 集う点>


(何故だろう、力が増幅している・・・・?)
はなげは、転移の法を使いながら己の力が増しているのに気付いた。
原因は分からない。
羊羹の汚染が広がり、失われた力―――いわゆる魔法が使いにくくなっているのに。
それにも関わらず、不思議といつも以上に強い力が自分の周りを覆っている。
実を言うと、自分以外の者に移転の法を使った事がなかったので、少しばかり不安があったのだが。
(もしかして一緒に二人の要がいるからだろうか)
要は基本的に単独で行動している。
この世にあらざる力を持つ者が集って何かをするというのは、あまり前例が無い。
これならば、予想していた時間よりずっと早く、ガイセルドへ行くことができそうだ。

船は、リメンブランツァ港に到着した。
ガイセルドから外海へ向けて開かれた大きな港。
今は大陸から脱出しようとする人々が乗り込む船や物資をのせた船でごった返していた。

「ここが・・・・ガイセルドなんですね」  船から降り、どんより曇った空を見ながらちゆが呟いた。
「なーんか嫌な天気だねぇ・・・・着いたばかりなのに気が滅入るよ」
「・・・きゅうぅ・・・・」
「どうしましたきゅーちゃん?」
「あれっ、ぶーちゃんも苦しそうじゃないか」
何故か、十三の要の癒し系担当の2匹は苦しそうであった。
「うーん、この街の気の流れの悪さに当てられちゃったのかねぇ・・・とりあえず夜が来る前に宿を探そう」
曇り空と同じ位、この街の空気はどんよりと重い。
(これはいけません。全体に悲壮感が漂ってます・・・・)
自分が招いた結果ながら、網をかいくぐってこちら側に落ちてきた者を侮っていた。
すべてに負けたような空気がこの港には広がっていた。
人型の要以上に周囲の空気に影響される動物型の2匹にとっては、この空気に当てられるのも無理はなかった。
(はやく、何とかしなければ)
世界に異変をもたらした元凶に、近付いてきている。
この不完全な神に出来ることはただ一つ。あの邪魔者を排除ずる事だけなのだから。

どくん、と鼓動が大きくなった気がした。
知らないはずなのに、知っている。奇妙な感覚が3人を襲った。
(あの方が・・・創造主)
意外、というのが正直なところだった。
あんなにも、世界を創造した者が愛らしい外見をしているとは思いもしなかった。
少女の傍らに居た、すらりとした体躯の獣人がこちらを見た。
「じーさん!?」
驚いたように叫んだ。どうやら老人と顔見知りだったようだ。
「猫耳殿!久しぶりではないかっ」
どちらにとっても思いがけぬ邂逅であった。
癒し系の二匹は喜びたいのに力が入らず苦しそうであった。
ともかくも、日没も近い。港で宿を探す事になった。

同じ頃、ペザンテ城の外れの研究棟ではベンバヤシが發の構造を調べていた。
「この自己修復機能は大体どれくらい時間がかかるんだい?」
「大体1週間ヲ要シマス時間ニ換算シテ168時間デショウカ」
「なるほどねぇ・・・結構かかるんだねぇ・・・」
(聞いてどうするつもりや?)
(使う気なんでしょうか・・・“絶対兵器”を!?)
(どちらにせよ、組み合わせとして恐すぎます。目の輝きがおかしいですよ・・・・)
科学者と絶対兵器。混ぜるな危険、という感じがする。
「おっ」黄色が突然声をあげた。
「どうかしたのかぃ?」半分別世界にとんでいたベンバヤシが問いかけた。
「近付いてきとるなぁ・・・・」
「探査能力に何か引っかかったんですか?」
「せや。もうガイセルドに来とる。創造主と、六人の要・・・」
力は集いつつある。決着の日は近い。
「・・・・急がなくちゃね。シスター、少し力を貸してもらえるかな?」
「内容によりますけど」
「いやぁ、君にしかできない事なんだなこれが」
胡散臭い笑顔で胡散臭い台詞を言われてもなぁ、とシスターは思った。

どうにか宿を見つけた一行は、旅塵をおとし食事を取り、くつろいでいた。
きゅーちゃんとぶーちゃんは体調不良のため、既に眠りについている。

「東国からここまで、一体どうやって来たんだぃ?」確か船などは無かった気がする。
(わたしが・・・要の力を使って空間転移を)
「・・・・空間転移?」それって何、つまりワープ能力!?
目の前の鼻毛がそんな高度な技を使える事にも驚きだが、そもそも一体誰の鼻毛なのか。
なぜはなげなのか。真相は誰も知らない。
(というか、恐くて聞けないねぇ・・・)ちゆもどういうつもりではなげを要にしているのやら。
「元々はなげは東国に居たんですか?」
(いえ・・・私はペザンテ城に囚われていたのですが、城に襲撃のあった日にシスターが逃がしてくれたので・・・)
「それで東国まで飛び、巫女殿を汚染から救ってくれたんじゃ」

「・・・・汚染・・って羊羹の!?」

「そうなんです・・・お二方には本当にご迷惑をおかけしてしまって・・・」
申し訳なさそうに巫女が言う。
「良く・・・無事だったねぇ。巫女さんも、じーさんも、はなげも・・・」
(シスターが浄化の力を与えてくれたお陰です)
「儂一人ではどうにもならなかったからのぅ。要すら狂わせる汚染とは、誠に恐ろしきものよ」
「だけど、汚染すら治すことが出来る力・・・・それが浄化の力なんですね」
「大したもんだねぇ」
老人はおや、と思った。創造主は要の能力を把握していないものなのだろうか?

「シスターは今も囚われの身なのかねぇ?」
(恐らく・・・まだペザンテに居ると思います)
彼女から譲り受けた力のお陰で、本体の場所もだいたい特定できる。
「では、助けに行った方が良いですね・・・・」
「十七歳は石化、グラシィは別行動。ここに居る要は六人・・・・もう十三の要のうち半分には出会った事になる」
「ここに居ないのはシスターさんと、ベンバヤシと」巫女が指折り数えている。
「發じゃろ」「チュンチュンも会ってないですねぇ」
「それから――――影か」

「影か・・・あ奴はどうしておるのかの。もう何年も会っていないのぉ」老人は影とも旧知の仲のようだ。
「アイツ、世界中ふらふらしてるからねぇ。はなげと巫女さんは影に会ったことは?」
「一度も無いです」(わたしも・・・無いです)
「でも、私の場合は東国に居たせいか、ほとんど他の要とは面識が無いですね」「そうじゃのぅ・・・」
東国は出入国が厳しい国である。他国との関わりは、最低限しかもたない。
「まぁ、会ったところで得する事は何も無いと思うけどね・・・」
ネコミミは何だか彼女らしからぬ冷たい事を言った。
一瞬眉間にしわが寄ったのを目ざとく見ていた巫女は、深く言及するのをやめておいた。
「しかし・・・世界がこんな事になっておるのにあやつが居ないというのは・・・」
不吉な予感がするのぅ、と老人は心の中で呟いた。
声に出せなかったのは、場の空気が重くなりそうだったから。

「・・・とにかく、ペザンテに行かなきゃですね」
「そうじゃなぁ。諸悪の根元を取り除かねばならん」
(城の研究塔にいる要達と合流した方がいいかもしれません・・・)
「たしかに仲間は多い方が良いだろうしねぇ」
「そうですね」巫女が続けた。
「向こうはどんな状況か分かりませんが・・・もしまた戦場で誰かが汚染されるような事があれば・・・・」
「シスターの助けが必要だねぇ。ともかくも行ってみなけりゃ始まらない、か」

再会を喜びあう暇もなく、一行は向かわねばならない。
ペザンテへ。
死の都、と呼ばれる王都。
そこに居る、存在してはならないものを討ち滅ぼすために、
力を持つ者達は集おうとしている。
それぞれの役目を果たすために。





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