(一体どこに居やがる・・・こんな時こそお前の出番だろーが!?)
わけもなく腹が立つ。寝付けないので宿の庭を散歩していたネコミミは一人、憤っていた。
「力だけは無駄にあるくせに・・・ちったあ人様の役に立とうとか思わんのか、アイツは!?」
つい声に出してしまった。ふと見ると無意識に拳を握りしめていた。なぜか恥ずかしい。
「本当にのぅ・・・」
「うわっ、じーさん!?いつのまに!」
というか、いつから!?
「猫耳殿に聞いておきたい事があってのぅ・・・」
「ん、何のことだい?」
「創造主は・・・わしらの事を覚えておらんのかのぉ」
「・・・・そうさね、多分忘れてる。正確には・・・誰かに封じられている感じかねぇ」
「何のために、じゃろう?」
「さぁ」
「だけど、記憶があるからといって幸せとは限らないよねぇ」
「影のことかの?」
「なっ・・・・なんでそーなんのよジィさん。確かにあいつも記憶喪失らしいけど」
「儂があれと出会ったのは、要になるより昔の事じゃったが・・・」
いきなり長くなりそうな回想が始まった。
「あやつは恐ろしく強かったのぅ。敵も味方も戦場の悪魔と聞けば怯えるほどの存在じゃった」
「今よりも・・・?」
「そうじゃの。あやつあの頃は力の抑え方を理解しておらんかったからのぅ」
しみじみと、老人は語る。
「要じゃと理解したのも遅かった。しかしそれと分かった後もあやつは変わらぬなぁ・・・」
「つまり、どういう事だぃ?」
「迷い子のままじゃ。あやつは今も帰る場所を探しておるんじゃろう」
それがどこにあるのかすら、分からぬまま。
「帰る場所・・・・か」
ぼんやりと空を眺めた。星が瞬いている。
ネコミミが一つの仮説を口にした。
「・・・なぁジィさん、諸悪の根源のフレデリカってぇのは、影なのかねぇ?」
老人はわずかに目を細め、しばらく考えてからこう答えた。
「お主の危惧は正しいかもしれん。しかし我等は・・・」
「戦わなきゃならない、でしょ?相手が誰であろうと」
「そうじゃ。そのためにここに居る・・・こんな老いぼれが戦ばたらきできるか怪しいがのぅ」
小さく溜息をつく老人の姿に、思わず笑いがこぼれる。
「なに言ってんだじーさん!アンタ『帝国の四騎士』の一人だったんでしょ?頼りにしてるよ!」
同じ頃、ペザンテ城の外れ、煉瓦にツタの絡まる研究塔。
「そういえば、レジスタンスの軍隊が入ってくるみたいですね」イディリオが何気ないふうに語った。
「何処からきた情報だい、それは?」發の改良をしながらベンバヤシがたずねる。
「いやぁ、うちの嫁が。リメンブランツァ港に買い出しに行った時、プラチードの兵を見たって」
さりげなくのろけている。
「戦が始まるんですね・・・」フォルトが不安そうに呟いた。
「・・・それじゃあ、次の満月あたりかな」
「どういう事ですか?」
「あの総帥、満月の日は負け知らずだからねぇ。違うかいシスター?」
「私は何も・・・存じませんが」そんな話は聞いたことがない。
「たしかそうだよねぇ、プレツェン君?」
「へっ?あ、はぁ。風の噂で聞いたような・・・」
何故俺に振るんだこのひとは。全くあなどれない上司だぜ。
プレツェンは、窓の外を見るふりをして、額の汗をぬぐった。
「なんや、験かつぎみたいなもんか?」
「僕も詳しくは知らないけどね」
満月。完全な力が満ちる日。
精霊の加護が得られる日だと神父に教えられた事をシスターは思い出した。
(ああ、神父様・・・村のみんな・・・・・元気かしら)
「・・・・見張りの交代行ってきまーす」
プレツェンがそさくさと出て行った。
かちゃかちゃと、部品を組み立てる音が響く。
發は活動を止めて休眠モードに入っている。その間に改造しているらしい。
「やけど・・・満月ゆうたら、もうそろそろやないんか?」
チュンチュンが窓の外を見て呟いた。
「恐らく、創造主一同もその日に便乗してやってくると考えた方が自然だね・・・・」
「それなら、わぃが作戦を伝えに行った方がええな」
「作戦?」
いつの間に立てたのだろうそんなもの。
「そうだねぇ、ついでに君も行って来てくれるかい?」
シスターに目配せする。「私も・・・ですか?」
「弱っとる要がおるかもしれんしなー」
「小動物系の要は大気の力に左右されやすいらしいからねぇ」
なるほど、回復要員か。
「分かりました。でも、どうやって・・・?」
「嬢ちゃん・・・実はわぃ、もう一つ特殊な力があってな」
いつになくシリアスなチュンチュン。
「なんですか!?」
「一定距離内まで他の要が近付いてくると、そこまで移動できるんや」
「な、なんだってー!?そんな便利機能、今初めて聞いたぞチュンチュンっ!?」
ベンバヤシも驚いている。
「秘密にしとった訳やないけど・・・なんせ、今はまだ使えんしな。もうちょい城に近付いてくれなあかん・・・」
「ちなみに、その力が無ければどうするつもりだったんですの?」
「僕がフレデリカに喧嘩ふっかけて注意をそらしてる間に城外に出てもらうつもりだった」
・・・・この人本当に知恵者なんだろうか。
意外といい加減な答えに、シスターが多少不安になったのはここだけの話である。
暗闇の中、それは目を覚ました。
いつから眠っていたのか、すぐには思い出せなかった。
何の音もしない。ひとすじの光も射さない常世の闇。
「なんだここは・・・・?」
世界のあらゆる場所を旅した彼にも、こんな場所に見覚えは無かった。
どうしたものか。
試しに小さく呪文を唱えてみたが、全く反応が無い。
まるで時さえも止まっているかのような、奇妙な空間。
立ち上がろうとしたが、面倒くさくなってやめた。
「どうしたもんかなァ」
全く危機感を感じさせない声音で呟き、彼は寝ころんだ。
その輪郭は周囲の闇に完全にとけ込んでいて、分からない。
十三の要、影・・・・彼はどうやらいずこかに囚われているらしい。
その場所は、要の位置検索機能を持つチュンチュンにも感知できない。
果たしてどこに居るのだろうか。