さながら
心の空白を埋めるかの如き安堵が、その身を包む。

身を委ねた先にあるのは ――――
歓喜か、感嘆か、驚愕か、慟哭か、それとも絶望か?

だれにも分からぬものなればこそ、人は求めずにいられない。





<第6話 其の名は謎の代名詞>


森の中に再び静寂が訪れた。
「石化か・・・・・アタリだねぇ」石になった17歳に目をやり、ネコミミは言った。
「意外と、何とかなるものですね・・・・」額の汗を拭いつつ、ちゆも答えた。
何しろ「言霊」というのは、それを使う者ですらどんな効果が事前に現れるか分からない不安定なもので、
実際に発動してみるまで、何が起こるかは一切不明である。その辺りが『博打』と呼ばれる由縁である。
ふぅ。小さく息をついてちゆは杖の柄だけを構え、呟く。
「再び結合せよ!」一瞬で翼が消え、輪が消え、宝珠はあるべき場所に戻った。

(重要なのは、力に喰われない事――――か)
ネコミミは師匠の言葉を思い出していた。どんなに強い力を持っていようと、それに喰われてはならない。
そして、力は無闇に振りかざす物では無いと彼女は常に教えられていた。
(師匠の言う事はいつも正しい・・・・17歳、アンタの身に何が起こったのかねぇ?)
ネコミミの手には、17歳の持っていた銃が握られていた。
言いしれぬ不快感が込み上げてきて、おもむろにそれを地面に叩き付けた。

 がしゃん! 

その衝突音を聞き、思わずちゆがそちらに目を向ける。「どうしたのですかネコミミ・・・ってそれは!?」
 確かに数秒前までは“銃”だった。
「なるほど・・・・やっぱ、そういう事か」銃を睨み付けながら、冷静に呟く。
数秒前までは銃だった筈の物が どろり、と溶けた。
途端、きゅーちゃんの目がキラリと光る!!
「きゅう♪」いつもの5倍くらいの素早さで動き、きゅーちゃんはその黒い物を苦もなく仕留めた。
それは紛れもなく―――――「黒き悪魔」羊羹だった。

「羊羹・・・・やっぱり、感染していたのですか・・・」呆然とした表情で、ちゆは言う。
「みたいだねぇ」嬉しそうに羊羹を食べるきゅーちゃんを横目に、ネコミミも頷く。
(う〜ん、羊羹というのは一体何なのでしょう?)
ちゆには分からなかった。17歳がそうであった様に、人を狂わせてしまう物なのだろうか?
(でも、きゅーちゃんは普通に食べてますよねぇ・・・)
人では無い物には無害なのだろうか?分からない要素が、多すぎる気がした。
「ネコミミ、羊羹とは一体何なのでしょう」そう問うと、ネコミミは少し困った様な顔をした。
「残念ながら、アタシじゃそれに答えられないねぇ。実を言うと、羊羹に関しては殆ど何も分かって無いのさ。
 未だに学者連中は頭を悩ませてる。その問いに正確に答えられる者が居るとすれば・・・・
 作った本人だけだろうね」溜息混じりに答える。
「そうなのですか・・・・」 そんな事があり得るのだろうか。
感染経路も、仕組みも、どこで作られたかも、対処法も分からないなんて。
「核さえ叩きつぶせばそれまでの物なのにねぇ・・・汚染、ってのがどうにも厄介で」 何もかもが、謎。
それ故に人は恐れ、怯える。

「ただ一つだけ明確なのは、どこぞの阿呆な大王が原因だ・って事ぐらいかね」
それはもちろん“荒らし大王フレデリカ”の事を指している。
王都が墜ちた後からだろうか。いつの間にか世界中に、羊羹は広がっていた。
「なるほど・・・やはり奴を倒すしか無さそうですねぇ」「そういう事さね」
「そういや」思い出した様にネコミミが言う。「何ですか?」
「狩りの被害者を助け出さないとねぇ・・・・・・」
「・・・狩り?何の話ですか?」

「アイコン狩りさ」

「なっ、何ですかそれはっ!?」ちゆは叫んだ。
「目的は分からないけど、フレデリカが乗っ取ったガイセルド帝国の兵士は皆アイコンを探してる。

 世界に鏤められし、13の要を」




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