何かをするために必要なのは、決断する意志――――それだけだ。
それさえあれば、我等に出来ぬ事など無い。

                       軍事国家ラメント“革命の戦士”





<第8話 彼女の決断 −後編−>



「良い?何があってもここから出ちゃ駄目よ。あなたのことは、私達が護るわ」
「待って、私が出て行けば済む事じゃない!!どうして?」シスターは、教会から出て行こうとする親友に訴えた。
その声に足を止め、呆れたような顔をして、友は言った。
「分かって無いわねぇ・・・・貴女は、私達の希望そのものなのよ?」
それを護るためなら、自分の命を賭しても構わないと思えるほどに。
「だから、あなたは生きなきゃ駄目なのよ。」彼女は微笑んで、教会から出て行った。
扉が閉まり、暗闇が彼女を包んだ。

それから一時間弱。シスターはずっと、考えていた。
いいや、どうするべきか・なんて事はとっくに分かっているのだ。だが、気持ちが動かない。
扉にもたれ掛かって目を閉じる。外の声が聞こえてくる。
「気にせず逃げろ!」「俺達の命でアンタが助かるなら本望さぁ!」「行け!!」
(行ける訳、無いでしょう・・・・?)
一人だけ、生き延びて・・・・そして、どうしろと言うのか。
街の入り口に捨てられていた自分を、この街は―――ここの人達は受け入れてくれた。
育ててくれた。沢山の優しさをくれた。・・・ここは、大切な場所だ。
それを捨てて、多くの人を裏切って――――生きていける訳が無い。
だが、ガイセルド兵に身柄を拘束されるという事は、生きるも死ぬも向こう次第だという事だ。
それが怖い。浅ましい考えかもしれない、それでも彼女は自分の命が惜しかった。
たとえ初めから望まれなかった物だとしても、それにしがみついて今まで生きて来たのだから。
 扉の向こうから、また声がする。聞き慣れた声。いつもと同じで、穏やかな・・・
「聞こえますか?小さき子よ、あなたが正しいと思うことを、なさい」
(神父様・・・・・・!!)
鼓動が、速くなるのが分かった。「私が・・・正しいと、思うのは・・・」
状況は最悪だ。自分が行かねば、街の人が死ぬ。ならば、“最善”は決まっている。
逃げ出さない事。
全てを放棄してしまいたい、なんて甘えた考えを捨てて、震えだしそうな足を前へと踏み出す事。
(そう、あなた方が私を護りたいのと同じ位―――私も、あなた方を護りたいのだから)
覚悟を決めて、重い扉を開いた。

囚われた街の人達の驚いた顔が見える。それに、それを取り囲む兵士達にも動揺が走った。
誰もが、金髪の若きシスターを見ていた。一歩、また一歩と歩み出て・・・
「皆を放して下さい」公然と、言い放つ。
「な、何言ってんだ!?」「出て来ちゃ駄目って言ったのに!」「俺等の命なんざ、アンタに比べりゃ安いもんだ!」
口々に言う街の人達に、シスターは微笑みかけた。
「それは違います。命に安いも高いも無いですよ。私には、あなた方を見捨てるなんて出来ません」
その場にいた誰もが、彼女の優しさを前に言葉を失った。
「なるほど、実に聡明な判断だ!素晴らしい!!」
唐突に声が聞こえた。僅かに笑いを含んだ、人を小馬鹿にしたような、声。
振り向いて、声の主を見た瞬間、分かった

(同類、だ・・・・)

対峙しただけで分かる。“アイコン”あるいは“要”と呼ばれる者。
(この世にあらざる力持つ者―――何故アイコンが、アイコンを狩る!?)
変だ。酷く嫌な感じがして、シスターは考えるのを止めた。
「・・・・何処へでも連れて行くがいいわ」部隊長らしきその男に、吐き捨てるように言う。
なんだか、そう・・・腹が立っていた。この状況を招いた物に対する憤りで。
「その代わり、この街の人に手を出したら私は貴男を許しません」
白衣の男を睨み付ける。ハッタリでも脅しでも無く、それは本気の目だった。
「分かってるさ、その辺りは心配いらない。僕は約束を守る男だよ、お嬢さん?」
(・・・う、胡散臭い・・・・)恐ろしくこの先が不安だ。だが、もう後には引けない。
状況は、変化した。そして、この先どう動いていくのか、どう変わっていくのか、知る者は何処にも居ないのだ。
だからこそ―――約束しておこう。

 「必ず戻りますから!」ドレンテの人への、そして自分への誓いでもあった。

若きシスターは、そう言って夕焼けの下、故郷を後にした。




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